かつてはお客の希望どおり「じゃない」車種を推す技術もあった
いつくるかわからない、新車購入を希望している人の来店を待っているだけでは、ノルマを消化することなどはできない。新車を買ってもらうのではなく、売りに行くのが昔のセールススタッフのおもな仕事だったのである。さらに、明確に「●●さんにはこのクルマを売ろう」と、販売予定車種も絞り込んで、バランスの良い販売も心がけていたのである。
いまでもトヨタ系ディーラーのセールススタッフは、販売マージン支給基準などでバランスの良い販売を誘導するようにしていることもあり、高収益の見込める大型高級ミニバンから、コンパクトカーまでバランスよく販売している。しかし、そのほかのメーカー系ディーラーセールススタッフでは、扱う車種のなかで量販の見込める車種が限定的なこともあるが、とくに軽自動車を主軸に据えている傾向も否めない。軽自動車メインなど、販売車種が売りやすいモデルに偏っている傾向が目立っている。
ただし、それをいまの若手セールススタッフにやれといっても、社会背景が当時と明らかに異なっており、若い世代ほど前述したようなお客との人間関係構築はかなり難しいので、昔話程度に聞き留めておいて欲しい(買う側も若い世代ほど、セールススタッフとの距離は一定以上保ちたいと考えているように見える)。
いまどきの新車販売現場を見ていて、売り子といわれるのは別の意味もある。それはお客の希望どおり新車を売ってしまうところが売り子と表現されてしまうのである。
自販連(日本自動車販売協会連合会)や全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が毎月発表している販売台数統計をみると、トヨタ車が多く上位にランクインするだけではなく、コンパクトカー、大型ミニバン、SUVなどバランスよく上位にランクインしてくる。
そもそも圧倒的なシェアで国内販売ナンバー1ブランドとして君臨しているのだからという見方もあるが、トヨタのセールススタッフは、自分が過去に売ってきたお客に対してきちんと売り分けて継続的に乗り替えてもらえていることがランキングを見ても伝わってくる。ユーザー年齢層が高めにも見えるのだが、それもあり「●●さん(セールススタッフ)がいうなら」といったノリで新車に乗り替える人がまだまだ多いこともある。
ほかのメーカーでは多くのラインアップを持っていても、結果的に量販できるモデルが数台しかないということもあり、売り分けることもできずに言われるがまま新車を販売してしまっていることも目立つのか、販売台数ランキング上位に入ってくるモデルは限定的となっている。
「お客さま、こちらのクルマはどうですか?」と勧めるには、やはり膨大な商品知識など情報を多く持つことはマストとなる。つまり、勧めるだけの理論武装が必要なのである。そのため、新車を多く売る敏腕セールススタッフはトーク上手というよりは、相手を納得させる豊富な情報を提供できるセールススタッフのほうが多い。
筆者は仕事柄、ひんぱんに新車ディーラーに出入りしているが、「この人は情報量も豊富だし説得力もあるなぁ」というセールスマンに出会うことは少なくなった。購入者側が決め打ち(購入希望車を絞り込んでくる)していることも多いようなので、そこまでセールススタッフに求めなくなってきているのかもしれないが、やはり膨大な知識に裏打ちされたトークには説得力というものがある。