タコメーターの赤いエリア「レッドゾーン」! 目盛りがあるってことは使って良い? そこまで回すと何が起こる? (2/2ページ)

エンジンは過酷な環境に晒されている

オーバーレブするとなぜ壊れるの?

 クルマのエンジンには、クランクシャフト、コンロッド、ピストンというシリンダーブロックに収まる腰下パーツと、カムシャフト、ロッカーアーム、バルブなどのシリンダーヘッドに収まる腰上パーツが組み合わさって忙しなく動いています。

 物質には質量があって、動くとその速度に比例して慣性力が発生します。たとえばピストンは、シリンダーのなかを1秒間に数千回往復しています。技術の進歩でパーツの軽量化が進んでいますが、数百グラムのピストンが生む6000回転を超える領域での瞬間負荷はトンのレベルに達します。それが回転に比例して増えていきますので、エンジンの内部では想像を超える過酷な状況で各部品が稼働しているんです。

 エンジン腰下で回転の負荷がもっともかかるのがコンロッドと言われています。ピストンは常に燃焼の温度と圧力に晒されているのでもっとも過酷だというイメージを持っている人も少なくないと思いますが、じつはピストン本体よりも、高回転で増大するピストンの慣性力を保持するコンロッドの大端部が、もっともオーバーレブの負荷がかかる部分であるようです。

 ピストンによるすさまじい慣性力で振りまわされ、限界を超えて破断すると、シリンダー内で暴れて周囲を破壊、最悪の場合はシリンダー壁を突き破って露出するケースも実際にあるそうです。

 一方、腰上ではバルブがもっともオーバーレブでダメージを負う部分です。ひとつずつのサイズは小さいので重量自体はピストンより少ないのと、吸排気の各バルブは2回転で1往復するため往復頻度はピストンの半分ということで、慣性の負荷の値はピストンより小さいのですが、バルブはカムの力で押し出され、スプリングの張力で戻る仕組みのため、高回転での追従性はそのバルブスプリングに依存します。

 回転が上がりバネがバルブを引き戻し切れなくなってバルブの動きが遅れてしまうと、バルブの傘が燃焼室内に飛び出たままとなり、ピストンと衝突してしまうのです。当然、どちらもダメージを受けますし、破損した破片で燃焼室にも被害が及んでしまいます。

 すごく簡単に言ってしまうと、スプリングを強くすれば高回転での追従性に対応させることができます。しかし、その強力なスプリングを押し縮める力はエンジン自身で発生させる力なので、発生パワーが少ない低回転では抵抗になってしまいます。スプリングの張力を受け止める部分の強度も必要になるので、パーツの重量も増すでしょう。

 ちなみにエンジンは高回転高出力になるほどギリギリのクリアランスで設計されていて、ギリギリのタイミングで動いているので、バルブの少しの遅れでもピストンと当たってしまいます。

 逆に言うと、低回転の設計のエンジンの場合は余裕のある設計のため、多少の遅れではピストンとバルブが当たらないようにできていますが、弱めのバルブスプリングが装着されていることで、高回転になるとカム(ロッカーアーム)にバルブが叩かれて浮いてしまう“サージング”という現象が発生します。ピストンと当たってしまう心配はさほど大きくありませんが、バルブが浮いて燃焼室の圧力を逃がしてしまうので、それ以上回転が上げられません。

 このように、オーバーレブをさせてしまうと、その程度によってはエンジンの修理費用が膨大になってしまうような深刻なダメージを負う可能性があるので、サーキット走行の際などには十分に注意してドライビングしていただきたいと思います。

 また、“オーバーレブ”というのは構造上マニュアルミッション車と一部のスポーツモードAT車でないと起こらないので、標準的なATミッションのクルマでは、いくらアクセルを踏み続けてもオーバーレブの心配はないでしょう。

 それに加えていまのECU制御のエンジンであれば、設定以上の回転にならないようにリミッターと呼ばれる回転制限プログラムが組み込んでありますので、まわそうと思ってもまわせないようになっています。

 高回転までまわす気持ちよさは他に代え難いものがありますが、やり過ぎるとその被害はかなり大きいので、自制心は常にONにしておきましょう。


往 機人 OU AYATO

エディター/ライター/デザイナー/カメラマン

愛車
スズキ・ジムニー(SJ30)※レストア中
趣味
釣り/食べ呑み歩き/道の駅巡りなど
好きな有名人
猪木 寛至(アントニオ猪木)/空海/マイケルジャクソン

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