祝・モデューロ30周年! ドリキン土屋圭市が「1999年当時仕様のS2000」から「最新タイプR」まで一気乗りして「実効空力」を語った!! (2/2ページ)

職人と有志が作り上げる珠玉の空力デバイス

「コンプリートカーを作ると、タイプRみたいなスポーティなものを作りたくなりがちなんだけど、モデューロXはとにかくストリートを気持ちよく、どんな路面環境でも安全・安心に走れることにこだわってる。速さも追求したのはS660くらいかな。ほかは4ドアモデルだからね、同乗者が快適に過ごせることが大事。テストコースではまず2列目や3列目に乗って、納得できる乗り心地に達してから、初めてオレがテストドライブするんだよ」。

 プロドライバーが運転席ではなく、まず後席に座ってテストするというのも異例だが、そのほかにもモデューロの開発現場には異例なことが多い。テストコースにはデザイナーやモデラーも同席し、可能な限り多くのスタッフが実際に試作車を走らせる。そして、現場でエアロパーツの形状を調整して、また試乗、という作業が繰り返されるのだ。

「風洞実験だけじゃなくて、実際に走らせないとわからないからね、実効空力は。はじめはダンボールとガムテープでカタチをある程度決めて、それからモデラーを連れてくるんだけど、現場で泣きながらパーツを削ってるよ」と土屋氏は語るが、そこにトップダウンで作業を命じるような空気はない。モデューロXの開発チームは、ホンダアクセスのなかでもこうした職人のクルマ作りに賛同する有志の集まりだからだ。

「いろんなことをやってるし、ボツになったものも多いよ。有志のひとりひとりが思い思いに考えながらクルマづくりをして、開発責任者がチェックしてダメ出ししてね。そして、また考えさせる。だから、人が育つんだよね」。

 この開発体制こそ異例の最たるものなのだが、クルマ好きが納得行くまでとことん作り込むからこそ、ユーザーの絶対的な信頼を得るクルマに仕上がるのだろう。土屋氏によれば、当初はデモカーとともに全国を訪ねて魅力を伝えて回ったというモデューロXに、懐疑的な反応もあったという。しかし、試乗を経てそのコンセプトや実力への理解度は高まっていった。

 そして、いまや指名買いのファンを多数獲得するまでに成長した。オーナーズミーティングでは、「ドライビングが楽しい」というオーナーの声のみならず、「安心して運転できる」「同乗者が酔わなくなった」「子供が安眠できる」、などとオーナーの家族の声までも多く聞かれ、誰もが次もモデューロXを購入したいと語っていたのが印象に残っている。

 モデューロエアロパーツで始まり、モデューロ Xの開発を通じて高まったのが実効空力だ。いくつかの技術要素が確立され、それらを適宜組み合わせることで、車両ごとに特性が最適化されている。まずエアロバンパーは形状そのものが、空気の剥離をスムースにし、曲がりやすさを追求する形状を採用。次にアゴ下に配置される「エアロスロープ」は床下エアフローの流速を高め、直進安定性向上に寄与する。

 また、フロントバンパー下部の「エアロボトムフィン」は、ホイールハウス内の内圧を低減し、ステアフィールを高めるという。さらに、フロントバンパー側面の突起は「エアロフィン」と呼ばれ、操舵時にボディ面から突出したタイヤ周辺の乱流を抑えて旋回性能を向上させる。こうしたエアロバンパーに組み込まれた空力技術要素は「実効空力デバイス」と呼ばれ、モデューロ Xシリーズのエアロバンパーのみならず、モデューロのエアロパーツにも採用されているものがある。

 そして、最新技術が、ホンダ車やモデューロのファンならずとも気になるという声が巷にあふれているシェブロン(鋸歯)形状の実効空力デバイスだ。

 もともと、ジェットエンジンの騒音低減用に用いられていた技術だったが、ホンダアクセスはヴェゼル e:HEV モデューロXコンセプトの開発時に、これを操縦安定性を高める実効空力デバイスとして活用した。

 残念ながらヴェゼルは開発中止となってしまったが、その空力技術をシビックタイプRのテールゲートスポイラーに搭載して発売した。

「これの開発はおもしろかったね。三角形の大きさとか、高さとか、角度とかいろいろやったんだよ」と土屋氏は振り返る。「ヴェゼルもシビックも、すごく時間も手間もかかったよ。車種によって効果を発揮する場所や個数がまるで違うからさ」

 さらに注目を集めたのが、効果を体験するための試乗イベントの実験アイテムだ。スーパーハイト軽のN-BOXに、シェブロン形状の部材をマグネットで貼り付けるだけで、旋回時のフラつきが減り、振動や騒音まで減少するとあって、自作するユーザーが続出している。

 たしかに、乗り比べれば効果は歴然で、デバイスが車体にもたらす効果も数値的に計測されており、ユーザーにもどんどん価値が浸透してきている。

 ホンダアクセスでも、モデューロブランドにはじまり、モデューロXブランドで育てた実効空力を、電動化時代でも有効な基幹技術としてますます発展させていこうとしている。この技術を盛り込んだエアロパーツの展開にも期待したい。

「モデューロは絶対裏切らないよ。本当に買ってよかったな、って思ってもらえるものしか出さないから」と、土屋氏は胸を張って語る。

 風を味方につけて、日常使いで味わえる楽しく快適な走りを生み出そうとするその挑戦から、次はどんなイノベーションが生み出されるのか。今後ますます目が離せなくなりそうだ。


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