【試乗】同じ「クラウン」でもまったくキャラが違う! 従来のファンを感動させる「セダン」の乗り味と新しさを感じさせる「スポーツ」 (2/2ページ)

シリーズの真打ち「セダン」はさすがの乗り心地

 次にクラウンセダン。

 FCEV(水素燃料電池車)に試乗する。このクラウンセダンは、 多くの人が待望する後輪駆動FRのパワートレインレイアウトが基本で、FCEVもそれと同じ専用のプラットホームを採用している。これは、じつはミライをベースに車体や内装を作り変えたものといえ、全体的なフォルムもミライに酷似している。

 フロントまわりのデザインやリヤパネル、またサイドビューなどが新型クラウンセダンとして構成されているが、フロントドア後ろのBピラーまではミライのシャシーを共有する。

 ミライと同様、フロントボンネットフードの下には燃料電池スタックが収まり、センタートンネルとリヤシート下に水素燃料タンクが備わっている。また、後席背もたれ後方に駆動バッテリーが縦置き配置されており、これによりセダンとして実用性を高めるトランクスルー機構は有していないが、後席にも電動リクライニング機能を装備していることで快適性を高めている。一方で、リヤシート下に水素燃料タンクが収まっているため、後席のヒップポイントが若干高まっている。

 なだらかに落ち込んでいくクーペデザインのルーフラインに対して、 後席ヘッドクリアランスは不足気味と言わざるを得ないが、ハイブリッドモデルでは水素燃料タンクの代わりにガソリンタンクが搭載されヒップポイントを若干下げることができているという。

 それでも高級車であるべきクラウンの後席ヘッドクリアランスと考えると不足感は否めない。

 FCEVはミライでおなじみのシステムとなっている。その駆動モーターはリヤアクスルに搭載され、 後輪2輪を駆動するのが特徴だ。初代ミライは前輪駆動のFFモデルで、駆動モーターの上にスタックを搭載していたため、エンジンフードの位置が高くなってしまい、外観的なフォルムもいささか 不格好なデザインとなってしまっていたが、後輪駆動とすることでボンネットフロントフードの位置を低くすることができ、クラウンとしてふさわしい外観フォルムになったと言える。

 また、先代クラウン同様にシックスライトウインドウのデザインを継承しているので、クラウンらしさとして十分な車格とデザインアイデンティティを感じ取ることができる。

 モーター駆動により非常にトルクフルで、またスムースであるのはいわゆる電気自動車とまったく変わりない。また、アクセルを踏み込んでもエンジンが始動することがないので、常に静かに走行できる。それはBEV(100%バッテリー電気自動車)と同じと言える 。それでいて排出ガスは水のみなので、環境にも優しく、インフラ的な世の中の仕組みが備わっていれば、FCEVは理想的な自動車の駆動システムといえるだろう。

 クラウンセダンが4輪駆動ではなくFRレイアウトを採用したことは、このデザインを達成するために、フロントアクスルにモーターを押し込めることが難しかったこともひとつの要因と言えるだろう。また、水素燃料スタック、後輪モーターのミライがベースとなっていることで、逆に言えばハイブリッド仕様はフロントのエンジンを縦置きすることが可能となり、水素燃料タンクを配置していた大きなセンタートンネルがあるので、そこにプロペラシャフトを通し 後輪を駆動することが可能となった。それ故ハイブリッドモデルはエンジン縦置き、後輪2輪駆動のFRレイアウトとして成立したというわけだ。

 両車に共通してるのは、ドライブモードのなかでエコ、ノーマル、スポーツ、カスタムのほかにRコンフォート、つまり後席の快適性を高めるモードが備わっていることだ。クラウンセダンはAVSという電子制御ショックアブソーバを採用しており、減衰特性をモードごとに切り替えることで快適な領域からスポーティな固めの領域まで変化させることを可能としている。

 市街地で試してみると、Rコンフォートは極めて快適性に優れ、 まるでベントレーにでも乗っているかのようなスムースでしなやかな走り味と乗り心地が与えられていた。それは大げさに聞こえるかもしれないが、実際に両モデルを比較した者としては、非常に似通った乗り味と言えるほど、FCEVのRコンフォートモードは優れているのである。

 また、電動パワーステアリングの特性も、FCEVモデルではフロントの重量が軽く、 前後重量配分に優れていて、操舵初期応答から極めてリニアなステアリングフィールを得ることができる。カメラで路面の白線を読み込み、直線であるかコーナーであるかを判断して、 直線ではステアリングのホールドをアシストし、コーナーでは操舵力をアシストするという新たな仕組みも備わっている。それがまたFCEVの前後重量バランスにうまくマッチしていて、運転しやすい。

 ハイブリッドモデルに乗り換えると、こちらは2.5リッターのエンジンを縦置きし、その後ろに電動モーター/ジェネレーターを備え、さらに4速のトランスミッションを連結して後輪にプロペラシャフトを伸ばし、リヤデファレンシャルを通じて後輪左右を駆動するFRレイアウトとなっているのだが、それにより従来のFRクラウンと非常に似通ったドライブフィールを得ることができている。フロントのエンジンユニットは若干重量がかさむため、FCEVよりもフロント荷重はやや大きく、それによりパワーステアリングのアシストフィールに変化が起こり若干操舵初期応答に関して違和感を覚えたが、一般的には気にしなくて良いレベルであると言えるだろう。

 Rコンフォートモードでは、やはり同様にリヤの快適性が高まり、運転席においても同じようにそれを享受することができている。

 3000mmと長いホイールベースを採用したことで後席の足もとは広々としており、 センタートンネルこそ大きくなっているが、スペース的には十分だ。ただ、ヘッドクリアランスが不足していることだけが、改善すべきポイントと言えるだろう。また、ホイールベースが長くなったことでピッチング変化が起こりづらく、 安定性に優れているものの、旋回半径は5.5mとなり、DRS装着のスポーツやクロスオーバーよりも大きくなってしまう。

 ただ、エンジンが縦置きとなったことで、FCEVではステアリング最大操舵角が約38度であるのに対し、ハイブリッドモデルでは40度まで転舵できるそうで、より小まわり特性に優れる。代々FRのクラウンはもともと非常にハンドルの切れ角が大きくて旋回性に優れるので、 そうした部分もFRベースとすることで引き継ぐことができたと言えるだろう。

 4速のトランスミッションは、さらに電気モーターの制御により10速のステップ比が切られ、10速ATトランスミッション装着モデルと同様に扱うことが可能だ。これは非常に新しい試みで、機械的な4段のギヤに加えて、トランスミッションに直結される電気モーターの制御で10速分の駆動変化を引き出すことができるというものだ。

 ステアリングパドルのパドルを操作して、マニュアルで変速比を選ぶこともでき、 そういった面でスポーティな走行も可能と言える。

 スポーツモードにおいては、アクセルのピックアップやAVSのダンパーが固くなるなどの変化が起きるが、いずれのモードを選択しても基本的な扱いやすさに変わりはない。

 ブレーキについて言うと、今回モーターが装着され回生できるのはリヤのみということで、 通常走行においてブレーキペダルを踏み込めばリヤモーターの回生力で減速を行うことになる。ただし、旋回時や低ミュー路においては、後輪のみでの減速では不安定になる傾向を引き起こしかねないので、そうした場面ではフロントのディスクブレーキをバイトして、 普通のクルマと同様に減速し、安定性を確保することになる。

 ハイブリッドモデルにもEVモードが備わるが、ハイブリッドバッテリーはそれほど大きな容量を持たないため、航続距離としては大体2km前後と短いものであり、あまり多くの場面でEVモードを利用することはできないが、通常走行ではEVモードを自動で用いることでトータルでの燃費を高めるというのは、THSの通常の考え方と同様である。

 さて、今回試乗したスポーツとセダン。そのパッケージングやデザインなどに共通項がほとんどなく、 本当に同じクラウンなのかと思わせるほどだが、そうした従来の過去からの習わしに習わないで、自由に必要なものを必要な場所へ採用するという新しい考え方が用いられた結果だと言える。

 FFベースのe-fourを装備するスポーツやクロスオーバー、そしてその延長に今後エステートも加わり、クラウンセダンは後輪2輪駆動のセダンも、モデルとして従来のクラウンを引き継ぐような位置づけとなっている。

 トヨタのセダンはこれまで、リヤトランクスルーにスキーなどの長尺物が積み込めるようなスペースを必ず設けていたが、ハイブリッドのバッテリー積載の関係で、今回のモデルに備えられなかったのは残念だ。

 フロントから見ればハンマーヘッドのライトまわりデザインなど、クラウンらしさの統一感が図られる一方で、パッケージングや駆動レイアウトなどには独自性があって、 4モデル揃う新世代クラウンは多くの選択肢が与えられている。ただ、どのクラウンを選んでも、おそらく購入した人の期待に必要十分以上に応えてくれる仕上がりであることが確認できた。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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