ロング客を歓迎するのは日本のタクシー業界のみ
タクシーもグラブで呼ぶのが主流となっており、一部ホテルでは、宿泊客の空港までの足としてのタクシー配車要請に対応すべく、それぞれでプライベートタクシーを用意するところも目立ってきた。実際、バンコク中心市街地からスワンナプーム国際空港までを利用すると、メーター料金より少し高い程度であった。
そもそも外国人とわかるや、タクシーメーターを入れずに料金交渉してくるのもバンコク名物のひとつだが、夕方の帰宅ラッシュの時間帯では、メーターを入れた正規料金のほうが高くなることも珍しくないので、ぼったくり料金とはいえ、目に見えて法外な料金は請求されたことはない。
会食で飲んで帰るときなど、かなり短距離での利用に関しても、専用車だろうがタクシーだろうが嫌な顔ひとつせずに運んでくれた。これは降車後に利用者はドライバーの態度に対する評価と、いくつか用意されたチップ金額をクリックすることができることが大きいようだ。ちなみに、マッチングしたときには車両のナンバープレート番号とドライバーの顔写真と名前、そしてそのドライバーの5つ星満点での評価が出ているので、プロフィール次第ではキャンセルすることも可能となっていた。
そもそも、ロング(長距離利用客)客に固執するのは日本のタクシー運転士のみといっていいように見える。諸外国でロングの利用をすると、「同じエリア内で短い距離のお客を効率的に乗せたほうがいい」という話をドライバーから聞くことも多い。
あるときは、一度長距離の目的地を了承して乗せたものの、「やっぱりやめた」と降ろされたこともある(これ自体は問題あり)。またあるときは、郊外から首都中心部までタクシーに乗ると、「俺はここまで」と郊外の高速道路入口でいったん清算しておろされ、別の同じ会社の仲間の車両へ案内され目的地へ向かったこともある。地元を細かく走りたいというドライバーと、長距離大歓迎というドライバーで乗客をシェアしているようであった。
いずれにしろ、ロング客にこだわる傾向は日本のタクシー運転士の特徴のひとつであり、タクシーの近距離利用は、運転士に舌打ちをされたり文句をいわれることがあるのも、日本ならではといえるかもしれない。乗務員証の掲示義務を運転士のプライバシー保護としてなくした日本だが、世界的にはライドシェアの普及もあり、逆に配車時に顔写真付きで名前がスマホ画面に表示されたり、ドライバー個々の情報は限定的ながら透明化されたなかで日々利用者から評価されたり、高評価ドライバーほど営業運行時の特典も多いと聞く。
日本の行政当局などは世界の様子をきちんと把握して議論しているのかは甚だ疑問であり、このままでは日本ではあるあるとなる、ガラパゴス化された、不便なライドシェアサービスが誕生してしまうかもしれない。
いまの日本の議論でもっとも欠けているのは、「タクシーとライドシェアの共存共栄への模索」である。日本国内でもタクシーのスマホアプリ配車サービスが普及してきているが、その種類が多すぎるような気もする。
バンコクのグラブは車種選択がバイクから大型ミニバン、タクシーやハイヤーサービスまで、その種類が多すぎるが、ワンストップでその場所や時間帯に合わせて利用者が自由に選択できるという部分では非常に利便性の高いものだと感じている。