【試乗】サーキットでは猛獣! ワインディングでは高級サルーン! マクラーレン750Sの進化っぷりに唖然 (2/2ページ)

30馬力のパワーアップ以上に進化していたドライビングプレジャー

 スパイダーのドライブを始めてまず強く感じたのは、その乗り心地の素晴らしさだ。モノケージIIと呼ばれるカーボンモノコックを基本構造体に用いる750Sは、720Sのそれに対してさらに30kgも軽量化されているというが、その剛性感こそがこの感動的な乗り心地を生み出す大きな理由だ。

 ドライバーは自身の好みで「コンフォート」、「スポーツ」、「トラック」の各モードを、パワートレイン、シャシーの各々で選択することができるが、「コンフォート」ならば、まさに高級サルーンなみの快適な走行が楽しめるのだから驚く。

 ステアリングホイール上にはひとつもスイッチを持たない750Sだが、このメーターカバーの左右に配置されるアクティブ・ダイナミクス・スイッチの操作性は悪くはない。さらに、ハンドリングやエアロダイナミクス、パワートレインなどのセッティングを自分の好みに設定しておけば、センターコンソールのMCL(マクラーレン・コントロール・ローンチャー)スイッチひとつで、それを瞬時に再現できる機構も便利だった。

 試乗ルートの途中にあったワインディングロードでは、今回そのギヤ比がクイックな方向に改められたステアリングと、第3世代へ進化したというプロアクティブ・サスペンションのナチュラルな動きに感動させられた。

 ミッドに搭載される4リッターのV型8気筒ツインターボエンジンは、いわゆるターボラグを感じさせることもなく、中高速域での魅力的なトルク感をドライバーに伝えながらコーナーをクリアしていく。ここにはやはり軽さという、マクラーレンの絶対的なアドバンテージも影響しているのだろう。

 エストリル・サーキットに戻って、今度はクーペの試乗を行う。まずは再度V型8気筒エンジンのパフォーマンスをフルに味わってみたが、最高出力の750馬力、最大トルクの800Nmはやはり驚異的なスペックであることを改めて思い知らされる。

 それに対する車重は最軽量モデルの乾燥重量で1277kg。話は若干前後するが、スパイダーはカーボン製のアッパー・ストラクチャーとコンポジット製のRHT(リトラクタブル・ハードトップ)を採用した関係で、クーペからの重量増はわずか49kg。そのハンディは、一例として0-200km/h加速データを比較しても、クーペの7.2秒に対してスパイダーは7.3秒とないに等しい。

 前後のタイヤにピレリ製のPゼロ・トロフェオRを装着した750Sの走りは、まさにサーキットスペシャルといった印象だった。フロントで3%ソフトに、リヤでは4%ハードに設定が改められたスプリングレートとPPC IIIの動き、そしてフロントトレッドが6mmプラスされたフットワークの狙いは、おもに操舵初期のノーズの動きをより軽快なものにすることにあるようで、もちろんその後もコーナーの大きさにかかわらず、750Sは常に安定した姿勢に終始してくれる。

 アルティメット・シリーズのファーストモデルであるP1よりも高性能な動力性能を発揮する750Sのパワーユニット。そのトルクのピークは4000rpm付近で感じられ、もちろんレブリミットの8500rpmまで、そのスムースな回転は続く。M840T型と呼ばれるこのエンジンは、もちろん同型式の720S用の単なる排気量拡大版ではなく、超低慣性のツインスクロール型ターボのブースト圧アップやシリンダーの内圧アップ、さらには765LTと同じ軽量ピストンの採用に独自のエンジンマネージメントなど、その改良ポイントは広い範囲にわたる。

 エストリルで初めて試した「トラック」モードでの走りは、まさに獰猛な肉食動物のそれだ。ドライバーが望めば、さらにVDC(可変ドリフト・コントロール)によって、ESC(エレクトリック・スタビリティ・コントロール)のセッティングとは別に、トラクション・コントロールの介入レベルを調節することも可能。安全に750Sのもつパフォーマンスをフルに楽しめる環境がそこにはある。

 そういえば、「トラック」モードを選択するとメーターパネルがシンプルな横バーのデザインとなる、あの独特なギミックはどこに行ったのか? きっとそれもまた、ストイックな軽量化のために廃止されてしまったのだろう。マクラーレン750S。驚くべき進化の姿を見た1台だった。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
好きな有名人
蛯原友里

新着情報