この記事をまとめると
■2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員が自ら10点を入れたクルマを紹介
■嶋田智之さんはアバルト500eに10点を投じた
■バッテリーEVでも運転の楽しさを感じさせてくれるところを評価した
ここまでおもしろいと感じられたバッテリーEVは初めて
僕がこの仕事をしていて常に意識してるのは、“クルマの楽しさを伝えていきたい”ということ。それは自動車雑誌の編集者だった時代からまったく変わっていない、信念みたいなものだ。クルマを走らせてるときの楽しさや気持ちよさは、ドライバーにとってもっとも大きな宝物。自動車が「自動(的に走る)車」ではなく「自(分で)動(かす)車」である以上、そこは絶対に無視できないもっとも大切な要素だと思うのだ。
僕のCOTYにおけるもっとも大きな選考基準は、そこをどれくらいどんなふうに満たしてくれてるのか、にある。ついでに申し上げるなら、僭越ながらそれを公言しちゃったりもしてる。
だから、投票結果はとてもシンプル。今回の10ベストカーのなかでもっともそこを強く満たしてくれてたのが「アバルト500e」だった、ということだ。個人的には内燃エンジン好きだし、生活環境的にも仕事環境的にもバッテリーEVを採り入れるのが難しい自分が、バッテリーEVに最高得点を投じる日が来るとは思ってもいなかった。
ただ、正直に告白しておくなら、2023-2024シーズン全体における僕の今シーズンの1番は、ほかにあった。けれど、抜群にキレのいいハンドリングで魅了してくれたアルファロメオ・トナーレは、残念ながら10ベストカーに残らなかったのだ。そこで10ベストカーを選ぶ段階で僅差の2位にいたアバルト500eが最終選考のトップに躍り出た、という流れだ。
僕がアバルト500eを推す理由はいくつかあるのだけど、もっとも大きいのは、バッテリー+モーター駆動のメリットを走りの楽しさと気持ちよさにほとんど全フリしていることだ。しかも、あまり使わない──というより使っちゃいけない──速度域、つまり高速域〜超高速域にはほどほどのところで見切りをつけ、モーター駆動の瞬発力と強力なトルクを中・低速の常用域で最大限活用できるよう徹底して作り込んでいる。
20km/hから40km/hと40km/hから60km/hで内燃エンジンのアバルト695よりそれぞれ1秒速く、60km/hから100km/hでもだいたい1秒速く、40km/hから60km/hに達するまでがたった1.5秒。
その中間加速の強力さはいつでもどこでも見事なくらいの爽快感を与えてくれるし、中間加速=コーナーからの立ち上がり加速でもあるわけだし、バッテリーEVの特性を活かしたシャシーはコーナーでも抜群の旋回性と安定性を提供してくれるから、ワインディングロードの速いこと楽しいこと! 内燃エンジン版アバルトの弾けるようなおもしろさにまったく劣らない、極めて刺激的なバッテリーEVなのだ。
ちなみに僕は、テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーでもアバルト500eを推している。パフォーマンスを上げていくために容量の大きなバッテリーと高出力モーターに換装したりはせず、各部のキャリブレーションのやりなおしやハーネス内部でのロスの削減といった地味な作業をさまざまな箇所に星の数ほど重ねて+37馬力と+15Nmを稼ぎ出し、減速比を変えて相乗効果的に常用域での加速性能に繋げるといった、まさにアバルトの伝統に則ったかのような「チューニング」をフィアット500eに加えていること。そこに着目した。
目覚ましい新技術こそ持たないが、バッテリーEVでこうした手法のみで性能を上げるのは新鮮に感じられるし、持てるテクノロジーの有効な使い方だと思う。
もうひとつ。アバルトの内燃エンジン・モデルに特徴的なエキゾーストサウンドを、6000時間を費やしてサウンドジェネレーターで巧みに再現しているのもおもしろい。このサウンドの使い方は、今後のスポーツ系バッテリーEVのトレンドになっていくかもしれない。
速いバッテリーEVはほかにいくつだってある。けれど、ここまで素直に楽しい、おもしろいと感じられたバッテリーEVは初めてだ。このクルマはバッテリーEVの今後の可能性を広げてくれたんじゃないか? そんなふうに感じられてならない。