レースでは独特な音が多くのファンを魅了
HSV-010は2010年の販売を予定しており、前述の2007年にプロトタイプを発表して以降は、ドイツ・ニュルブルクリンク北コースを舞台に開発テストを行う車両の目撃情報も多く報じられていた。しかしながら、2008年9月に発生したリーマン・ブラザーズの経営破綻に始まる世界的な金融危機(リーマンショック)や、年々加速していく環境問題への対応といったことが理由となり、市販型HSV-010の開発は中止されてしまった経緯がある。
市販モデルの開発は中止となったものの、特例車両としてSUPER GTに登場。2010年から2013年にかけ、GT500クラスに「HSV-010 GT」として参戦した。駆動方式はFRで、エンジンは3.4リッターのV型8気筒HR10EGを搭載。これは当時のフォーミュラニッポン用エンジンをGT500用にアレンジしたもので、センター1本出しタイプのマフラーから放たれる甲高い排気音は多くのレースファンから支持を集めた。
HSV-010 GTがSUPER GTに参戦した期間はわずか4シーズンだが、参戦初年度の2010年にはウイダーホンダレーシング(小暮卓史/ロイック・デュバル組)がシリーズチャンピオンを獲得。2011〜2013年もチャンピオンにこそ届かなかったものの、毎年複数回の勝利を記録するなど高いパフォーマンスを示した。
なお、HSV-010 GTの開発責任者は、かつて初代NSXのシャシーPLを務め、その後は「カラス」と呼ばれたホンダ自社製のF1マシン開発を主導し、初代NSXをベースとしたNSX-GTの車体開発責任者などを歴任した瀧 敬之介氏である。
一見すると接点は多くないように思える初代NSX、NSX-GT、F1、そしてHSV-010やHSV-010 GTだが、いずれも根底には赤く燃えたぎるホンダのレーシングスピリットが脈々と受け継がれていたマシンだったのだ。