ダイハツ1社のみでは収まらない全車出荷停止の影響
そして、こうした不正は最近になって行われたものばかりではない。
1998年11月にハイゼットトラックのフルラップ前面衝突試験において、立会試験にもかかわらず一部データをリハーサル試験時と差し替えて提出するという不正を行ったという。事前に用意したデータを、まるで目前の試験データのように出力するという不正内容は、まったくもって立会試験の意味がわかっていないとしかいえない。
このように174の不正のうち、たった3つを紹介しただけでも、企業風土を含めた根の深い問題であることは感じられる。他社OEMを含めて、すべての出荷を一時停止するという判断もやむなし、である。
では、これからダイハツはどうなっていくのだろうか。
ご存じのように、ダイハツの生産モデルは日本市場においてはかなりのボリュームを占めている。軽自動車についていえば、そのシェアは32.5%(2023年1~11月の数値・全軽自協調べ)で、軽自動車だけでも52万台も売っているのだ。
はたして販売停止がどれだけ続くのかはわからないが、OEMを含めた軽自動車の月販が5.5万台を超える(2023年11月実績)ダイハツからの供給が途絶えてしまうと、ドミノ倒し的にさまざまな事象が起きることが考えられる。
ダイハツ車を扱う新車販売店は売る商品がなくなってしまうことで死活問題となるケースもあるだろう。トヨタやスバルのディーラーにしても軽自動車が扱えないのだから、無視できない問題だ。
ダイハツ車が欲しいとこだわっていないユーザーにしても、一社からの供給が途絶えることは大問題だ。軽自動車を生産しているのはスズキ、ホンダ、三菱の3社だが、どこもダイハツの生産停止をカバーできるほど急に増産できるはずもなく、軽自動車を中心に新車不足の売り手市場となる可能性がある。
新車供給が安定してきたことで価格が落ち着いていた中古車相場も上昇する可能性がある。ユーザーからすると納期が延び、購入予算を増やさないといけない事態になるかもしれないのだ。
自動車業界でいえば、商用車に関するパートナーシップであるCJPTへの影響も必至といえる。2022年8月、エンジン認証における不正が発覚した日野自動車はCJPTから除名されている(現在は復帰)が、同じく認証における不正を行ったダイハツについても、同様の処分となる可能性が高いといえるだろう。
CJPTのプロジェクトとして、トヨタ・ダイハツ・スズキの3社で進めていた軽商用EVについても、ダイハツ・ハイゼットをベースとしていたことを考えると、プロジェクトは一旦停止となることが予想される。
ダイハツは以下のように、今回の不正を認識している。
『「認証」とは、お客様に安心してクルマにお乗りいただくための様々な基準を満たしているかを、あらかじめ国に審査・確認いただくものであり、認証の適切な取得は、自動車メーカーとして事業を行う前提であると考えております。今回、その認証を軽視していると指摘されてもやむを得ない行為が行われていたこと、また、そのような行為が行われる環境を生み出してしまったことの責任は経営陣にあります。自動車メーカーとしての根幹を揺るがす事態であると、大変重く受け止めております。』
はたして、日本でもっとも歴史のある自動車メーカーである「ダイハツ」ブランドは、信頼を回復することはできるのだろうか。その再生はいばらの道ではあろうが、日本市場にとって欠かすことのできないブランドがどうなっていくのか、目が離せない。