減価償却によって旧車は満足いく金額が支払われない?
ここで問題になるのは車両の購入費用についてです。
基本的に「車両保険」の補償額は、加入車両の購入時の金額が対象になります。新車であればそのときの「標準価格」がベースです。メーカー小売価格があればその額で、オープン価格の場合は実売価格になります。購入時の割引などは関係ありません。ナビゲーションやカスタムパーツなどのオプション装備を追加していれば、それも対象になります。
ややこしいのは中古車の場合です。
中古車の場合、程度や年式、販売店の意向、あるいはいまどきはネットオークションでの購入もありますので、実売価格にはかなりの開きがあります。安く購入できた車両に対して、「いま買い直すにはこれだけかかるんだ!」と、ピンキリの高い額を要求されても、保険会社としては応じることはできません。
そんな価格の基準が曖昧な中古車の補償額を算出するにあたって、保険会社がガイドラインとしているのが「自動車保険 車両標準価格表」というものです。これは各保険会社で作成したガイドラインをまとめたもので、細かくは違う部分もあるようですが、おおまかなところは共通の基準に沿っていると言っていいでしょう。
まず、新車の標準小売価格をベースとして、減価償却という考え方を基本に市場の実施価格も考慮に入れて算出されているようです。つまり、年々その価格は下がっていきます。滅多なことでは価格が上がることはありません。
このガイドラインに沿っていくと、ザックリですが、1年ごとに約1〜2割減額されていき、10年も経つころには新車時の価格は見る影もなくなってしまいます。
「えっ! 20年前の車種はゼロになっちゃうの?」と思った人もいるでしょう。でもゼロにはならないようです。額はケースバイケースのようですが、20〜30万円くらいの『最低補償額』というボトムラインが設けられているとのこと。
この公式どおりに順調に(?)実売価格が下がっていく車種であれば、このガイドラインとの食い違いは大きく出ませんが、中古車の価格はそう簡単ではありません。販売から30年以上経った旧車と呼ばれる車種のなかでも、人気の高い車種は市場価格が新車時の何倍もの額に上がっていて、いわゆる「プレミア」が付いた状態になっているものもけっこうあります。
そんな車種に乗っている人が、万が一の事故に備えておこうと「車両保険」に加入しようと思ったとき、まず提示される額がこの『最低補償額』だった場合、愕然として肩を落とす人も少なくないでしょう。
でもさすがにそんなことはないようです。基本原則の「原状復帰」の考えのもと、購入時の価格が金額算定の要素に加えられ、社内で検討して補償額が提示されるとのことですので、購入金額の満額は出ないかもしれませんが、最低ラインからすればかなりマシな金額が提示されるでしょう。
■プレミアに対応している商品や、交渉次第でどうにかなるという例もある
とはいえ、実際のところは「車両保険」に加入しようと思ったという人から、「あんな(補償)額じゃ加入する意味があんまりないよなぁ〜」という声が聞こえてくることも少なくありません。事故の割合が高かったり市場価格が高額だったりすると保険金額が高額になりますので、そのような車種であればさらに割高感は強まるでしょう。「再購入のときの頭金くらいが出れば御の字」と妥協して加入する人も一定数はいる印象です。
そうかと思えば「再購入の費用がほとんど賄えた」という話もときおり聞こえてきます。
「クラシックカー保険」という、まさに旧車のオーナーにピンポイントに向けた保険もあります。一般の「車両保険」に比べて保険金額は少し高いようですが、そのぶん補償額は満足のいく金額が設定されているようです。
また、これはウラを取れた話ではないのですが、こんな例もあるということでお伝えしておきましょう。
いま、市場価格が高騰しているR32型のスカイラインGT-Rを購入した際に「車両保険」に加入しようとしたところ、まず先述のように型どおりの低い金額を提示され愕然としたそうです。しかしその人は、「なんとかならないか?」と代理店に食い下がり、時間はかなりかかったそうですが、結果的にけっこうな補償額の保険に、想像よりかなり安い保険額で加入できたという話です。
まずはその車両オーナーの熱意が原動力ではないかと思いますが、保険代理店の担当者もデキる人だったことが要因だったと思いますので、誰しもがこれを実現できるとは思いませんが、提示された額をそのまま妥協せず、ダメ元で考証してみるのもアリだと思います。