旧車のポジティブキャンバーは当時の事情からなるものだった
街なかでたまに見かける、車高を極端に下げ大きくネガティブキャンバーをつけた「鬼キャン」の状態は、運動性能面での設定ではなく、視覚的な威圧効果を得るため、大きく車高を下げるときにタイヤとフェンダー内の干渉を避けるため、がその目的と言ってよい。
一方、これとは逆に、ヒストリックカーで見られるポジティブキャンバーの設定がある。正面からクルマを見た場合、4輪が上方に開くかたちで取り付けられる方式だが、ポジティブキャンバーで設定することの意味は何だろうか、これを考えてみよう。
まず、直進安定性の確保が挙げられる。これは、アライメントの設定で考えるとわかりやすいが、当時、ほぼすべてのタイヤは直進安定性のあまりよくないバイアス構造(対ラジアル比較)だった。そしてトレッド面はフラットな形状でなく、わずかに丸みを帯びて湾曲する形状のタイヤだ。こうしたタイヤで直進安定性をよくするために、トーを内側につけ(トーイン方向)、合わせてポジティブキャンバーとすることで、トレッド面外側を接地させながら直進安定性を確保していた。
また、パワーステアリングが普及していない時代で、操舵力を軽減する目的でポジティブキャンバーの設定がなされていたことも考えられる。もちろん、ポジティブキャンバーだけの設定ではなく、ステアリング機構のスクラブ半径値(キングピンオフセット量、スピンドルオフセット量)との関わり合いもあり、これらを最適値で組み合わせたステアリングまわり、サスペンションまわりの設計が行われていた、と見てよいだろう。
タイヤをどういった状態で接地させるかというホイールアライメントは、わずかな設定値の違いが、意外に大きくハンドリング性能に大きく影響するため、メーカー指定値に合わせた調整は必要不可欠だ。足もとの管理、メンテナンスは重々怠りなく、ということだ。