クラッチのないAT車は押しがけできない
■押しがけってどうやるの?
では「押しがけ」のレシピを紹介していきましょう。
1)まず必要なのはMT車です。AT車の場合はクラッチが付いていないので押しがけはできません。
2)続いて作業する人をふたり用意します。そのうちのひとりはクルマの扱いにある程度詳しい人がマストです。あまり詳しくない人だけでやると、延々とクルマを押す作業になります。
<注>場所は下り坂が理想ですが、場所を選ぶ余裕はないでしょう。先が登り坂ならUターンするか……諦めましょう。
3)詳しい人を運転席に、もうひとりをクルマの後ろに配置します。
4)運転者はシフトを2速に入れてクラッチを切って待機します。1速でも可能ですが、車速が遅いため十分な回転速度が得られずにかかりが悪いこともあるので、まずは2速で始めます。
5)後ろの人に合図して、車体を押してもらいます。
6)勢いが乗って、押す人が駆け足くらいになるまで「がんばれー」と声援を送ります。
7)車速が乗ったら、クラッチをスパッとつなぎます。ここでアクセルもクッとわずかに踏み込むと効果的です。
8)エンジンがかかったらすぐクラッチを踏み、点火や燃調が落ち着くまでアクセルをあおってあげましょう。
★もしエンジンがかからなかったら、5からの工程を繰り返します。
どうでしょう? カンタンですね。 Let’s enjoy “OSHIGAKE”!
はい、冗談です。一度経験した人は「二度はやりたくないな……」とぐったりしながら答えるでしょう。とくに押す役の人はそう思うはずです。オートバイならまだ現実的でひとりでもおこなえますが、それでもできることならしたくないというのが本音でしょう。スマホがあるならJAFの電話番号を検索して、電話に出た人に相談してください。
■押しがけが現役でおこなわれている場がある?
そんな絶滅してしまった「押しがけ」ですが、いまでも行われているのを見られる場所があります。そうです、サーキットです。
市販ベースのレース車両でセルモーターを撤去してしまうことは滅多にありませんし、いまどきはフォーミュラカーでもセルが付いていたりハイブリッドシステムを利用してエンジン始動をしていたりします。たまに「TSレース」などの、旧いコンパクトカーで行われるレースでは、軽量化のためにセルを取っ払ってしまっている車両があり、メカニックが押してエンジンをかけているシーンが見られますが、運が良ければ見られるというのが実状でしょう。
唯一、4輪であたりまえのように「押しがけ」が行われているのがカートレースです。レーシングカートはエンジンと車軸の間にクラッチがありませんので、タイヤをまわす専用スターターか押しがけしかありません。
え? カートをハコ車と同じカテゴリーにに含むのはどうかと思う? はいそのツッコミ、ごもっともです。つまり、いまやクルマで「押しがけ」という行為は絶滅危惧種、というわけです。