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「FFって何だよ?」時代に颯爽と登場したプリンス魂の宿る「日産チェリー」はやっぱり偉大だった (2/2ページ)

「FFって何だよ?」時代に颯爽と登場したプリンス魂の宿る「日産チェリー」はやっぱり偉大だった

この記事をまとめると

■日産で初めて量産されたFF車「チェリー」を振り返る

■当時の日本車では採用車種が少ないFF駆動を取り入れたモデルだった

■クーペモデルの「X1-R」はスポーツモデルとして愛されていた

日産初の量産FF車を知っているか?

 みなさんは「チェリー」と聞いてまず何が思い浮かびましたか? 直球で答えるなら果物の「さくらんぼ」でしょう? いまの若者なら「チェリーピース」? 楽曲なら圧倒的多数でスピッツの「チェリー」ですよね。人によっていろいろなイメージがあると思いますが、日産の車種で「チェリー」という名前があったことはご存じでしょうか? だいたいいまの40歳後半以上の人なら知っている可能性は高いと思います。

 いまではなくなってしまった車種なので、若い人には馴染みのない車種名だと思いますが、掘り返してみるとなかなかにドラマがあり、意欲的に作られた車種で、ここではその「チェリー」というクルマについて話してみましょう。

■いまでも根強いファンがいる、初代「チェリー」の誕生

 いまやFF(フロントエンジン&フロントドライブ)のレイアウトはメインストリームですが、この「チェリー」が誕生した1970年代の初頭まではFRが圧倒的多数であり、FFは得体の知れない「馬の骨」扱いのレイアウトだったようです。その認識にクサビを打ち込んだのがこの「チェリー」なのです。

 誕生年は1970年。先行して発売されていた「サニー」がライバルの「カローラ」との排気量競争に乗って1200ccへとサイズアップしていくなかで、ポジションが空いた小排気量の入門クラスに、1000ccのエンジンを搭載して市場に投入されました。

 当時はかなり斬新でエポックメイキングなFFレイアウトを引っ提げてインパクトのあるデビューをした「チェリー」は、じつはその発売以前に吸収合併された「プリンス自動車」が密かに開発していたクルマでした。

 自動車先進国だった欧州やアメリカの高性能車を開発の指針としていた日本のメーカーは、ほとんどの車種がFRのレイアウトを採用していましたが、よりコンパクトな車体で最大限の居住空間をというコンセプトの元で、イギリスの「ミニ」の構造を参考にしながら、日本の市場と道に適したクルマとして「プリンス自動車」が自動車市場の意識を変えてやろうという強い意欲で開発されていたそうです。

 そして日産と合併し、エンジンには「サニー」と共通の「A型」が採用されました。日産で同じ型式のエンジンが搭載されているということでサニーの派生モデルという認識の人も少なからずいると思いますが、じつは開発段階から別の道を辿ってきた車種なのです。

■新しすぎた!? 初代「チェリー」のメカニズム

 基本的な構成はイギリスの「BMC」が開発した「ミニ」に倣って開発をスタートしたものとのことですが、当時の日本車のなかでは採用例が少なかったFFタイプのレイアウトは、さまざまな点で困難な壁があったのではないかと想像します。

 エンジンは、元々FR車の「サニー」用に開発されたOHV方式の「A型エンジン」を採用し、それを横置きにレイアウトしました。FF方式ですからそこで前輪へと駆動を持っていくわけですが、途中にミッションとデフというかさばる装置を納めないとなりません。一方で居住空間を広く取るという大きな目的もありますので、前後長はなるべく抑えたい、というせめぎ合いを解決する手法として、これも「ミニ」に倣って採用されたのがエンジンの下にミッションとデフを収めてしまう方式です。

 おかげでエンジンの前後長はかなり短く抑えられ、その分室内を少し大きいサイズの「サニー」より広くすることができました。

 サスペンションも、前がストラット式、後ろがトレーリングアーム式と、入門車種としては贅沢な4輪独立懸架式を採用。「サニー」はリヤがリーフリジットというオーソドックスな方式でしたので、メカニズム的にも「サニー」を凌ぐ装備で、当時の日産とプリンスの関係性が少し垣間見える気がします。

 ちなみにこのFFレイアウトの特性なのか、あるいはフロントデフのセッティングのせいなのか、コーナリング中にアクセルを踏むと片方に駆動が偏る、いわゆる「トルクステア」というクセがあるという評価もありますが、現役当時はレースでそれなりの勝率を上げていたという実績がありますので、一概に悪いとも言い切れないのではないでしょうか。

 そして、そのレースでの速さにも関わる運動性能に貢献するファクターとして、車体の軽さが挙げられます。1000ccの少ない排気量で、格上の車両にも負けない走りを、という狙いで無駄をそぎ落とされまとめられたボディは、同世代の「サニー」より車体重量で30kgも軽く仕上げられていました。

 さらには内装も入門車種とは思えない凝ったものが奢られていました。ダッシュボードのデザインは、その後に発売される3代目スカイライン、通称「ハコスカ」を思わせるスポーティなもので、当時の若者にはさぞウケたことだろうと思います。

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