レースシーンではお馴染みのワザも一般車では意味なし!
■タイヤ表面を触って温度を確かめる
走り屋にとってタイヤのグリップは最重要項目のひとつなので、その状態には常に気を配っているのが当たり前です。なかには走りの途中でピット(待機場所)に戻ってきてすぐタイヤに触れてその状態を確認している姿もちょいちょい見かけますが、あのタイヤを触る行為については、あんまり意味がないようです。
タイヤを触る目的の第一は、表面の温度を確認してしっかりタイヤを使って走れているか、あるいはタイヤ表面の温度ムラを見て脚のアライメントが合っているかなどの確認だと思います。
しかし、タイヤの表面温度はその状況ごとに刻一刻と変化しています。コーナーを攻めてすぐピットインして確認するとしても、間の助走区間の路面温度に影響されて状態が変わってしまいますので、変化を察知する情報としてはなかなかに怪しいと言わざるを得ません。
また、タイヤを触る人間の手の感覚もけっこうアテにならないんです。触る前の手の温度で左右されますし、温度の記憶の保持も曖昧なので、「さっきの走りのときより温度が高いな」という感覚も頼りにならないことがほとんどでしょう。まれに感覚が優れた人で、実際の走りの温度と誤差の少ない認識を持っている人もいますが、それは純粋に温度だけの情報だけでなく、タイヤにかかる負荷の感覚などを踏まえて判断しているせいだと思われます。
■走り出した直後の蛇行運転(ウェービング)
F1を始めとする有名なレースでは、いまでもウォーミングラップでタイヤを温めるためとして「ウェービング(左右に蛇行を繰り返すこと)」がおこなわれているのを見かけます。これが印象に残っていて、タイヤを温めるための方法としてストリートでも定着している感がありますが、一般の車両であの行為は思ったほどの効果はないんです。
フォーミュラやLMPマシンを始めとするサーキット専用車に履かれる「スリックタイヤ」は、市販のラジアルタイヤとは異なるゴム(コンパウンド)で作られていますので、暖まり方とその温度によるグリップ力の変化がかなり大きいのが特徴です。レーシング領域で最大のグリップ性能を発揮させる設計のため、常温以下ではグリップ力が市販のラジアルタイヤより低いレベルとなっているんです。
逆に市販のラジアルタイヤは、常温を中心にマイナスの気温でもグリップ力を発揮出来るように設計されています。たしかにゴムの性質上、温度が高ければコンパウンドが柔らかくなってグリップ力が増す性質はありますが、その変化量はスリックタイヤに比べるとだいぶ小さいものです。ちなみに夏場など温度が高い季節の激しい走行では、限界温度を超えると剥離などのトラブルが発生する可能性もあります。
これについても、本気アタックの前に集中力を高めるための「儀式」としてなら有効だと思いますが、タイヤの温度に関しては、ラジアルタイヤを峠で蛇行させた程度では思ったようには上がりませんので、「温めたからOK!」と過信しないほうがいいでしょう。
■コーナー進入時の“当て舵”
街なかで路地に入るときや少し手前に折れた鋭角な道に入るときなどの小まわりな転回のとき、クルマの頭を一度逆側に振ってグイッと曲がっていく人をよく見かけます。
あれは曲がるための半径を大きくすることで、向きを変える補助としておこなっているのだと思います。それと同じ感覚なのかは不明ですが、ヘアピンへの進入でわずかに逆ハンを切ってから曲がる人をときどき見かけます。あれ、タイヤのグリップを最大限に使って曲がるという意味においては逆効果なんです。
コーナーの進入時のタイヤの接地面は、ブレーキングの縦の負荷と、コーナーに切り込むためのねじる力の両方を支えています。ブレーキから転回に移行するときに縦とねじれの負荷をスムースに切り替えていくのが理想ですが、ここで余計な躁舵を加えると、グリップのリソースをそれに割かれてしまうので、限界のグリップからは離れてしまいます。
たまに上級者で、荷重移動のために当て舵を活用する人もいますが、あれはグリップの限界と車両の挙動を踏まえた上でおこなっているものなので、クセで当て舵を行っている人は、速く走るためには矯正したほうがいいでしょう。