独自のカスタマイズができるのがGT300 MCの魅力
まず、GR86 GTにとって基準ともいえる1台が、aprの30号車「apr GR86 GT」だと言えるだろう。以前、当媒体でも紹介したとおり、GR86 GTはaprが開発したモデルで、30号車はいわば「元祖GR86 GT」といった存在。しかし、意外なことに30号車は2022年のデビューから空力デバイスに大きなアップデートは行なわれていないようで、主に中身をブラッシュアップしているという。
チーム監督であり、エンジニアでもある金曽裕人氏によれば「2022年からの最大の変更点としてはフロントのオイルタンクの位置を変更したことです。助手席の前に隔壁を作ってそのなかにオイルタンクをいれたことで重量配分を改善しました」と語る。いわば慣性マスの集中化を図るためのアップデートで、「あくまでも先行開発ということでオイルタンクの位置を変更しましたが、1年間、戦ってきて大きな問題はなかったので、来年以降はほかのモデルでもオイルタンクの変更を採用できると思います」とのことだ。
ちなみに、気になる空力デバイスの変更については、「30号車は空力のベースになっているので、風洞で新しいものを見つけるまでは変えない予定です。足まわりに関してもまったく変更していません」と金曽氏は語る。
「30号車は基準であって、もうちょっと塩コショウを足したいとか、ケチャップを足したい……といった形で、独自に開発を行ったのが2号車だったり、20号車だったりするわけですが、それがGT300規定モデルの面白いところです。みんなが自由に触れて切磋琢磨すればいいと思います。うどんに例えるなら30号車は“素うどん”で、2号車や20号車のように自由にトッピングができる。GR86 GTのボトムアップに繋げるためにも、我々としては素うどんを極めていきたい」とのことで、まさに30号車はGR86 GTの標準モデルとなっている。
一方、空力面においてもっとも著しい変化を遂げているのが、muta Racing INGINGが投入する2号車、muta Racing GR86 GTだ。同チームでは、2022年にGR86 GTを投入して以来、バンパーおよびフェンダーなど段階的にアップデートを実施。同チームでチーフエンジニアを担当する渡邉信太郎氏によれば、「細かい部分で言えば、ボンネットやフロントのアンダーパネル周辺も変わっています。そのほか、足まわりも変わっています」とのこと。「自分たちで自由にアップデートできるところがGT300車両の魅力ですし、だからこそ、チームとしてGT300車両を選んでいる」とのことで、今後も2号車、muta Racing GR86 GTの進化は続くことことだろう。
また、20号車のSHADE RACING GR86 GTも独自の変更を行なっている。SHADE RACINGで監督を務める小笠原康介氏によれば「2022年はaprさんからデリバリーされた空力パーツを使用していましたが、2023年は独自にアップデートを行いました。具体的にはフロントフェンダーの後端とリヤフェンダーの後端、リヤバンパーの両サイドを変更。それに合わせて、サスペンションのセットアップを詰めていきました」とのこと。
さらに「FIA GT3と違ってGT300車両は変更できる部分が多いのでやり甲斐はあります。まだまだノビシロはありますよ」と語っているだけに、20号車のSHADE RACING GR86 GTもアップデートを重ねていくに違いない。
2024年も各チームともにGR86 GTを投入する予定となっているだけに、どのようにマシンが変化したのか、開幕戦の岡山では3台のGR86 GTのビフォー&アフターに注目だ。
なお、市販モデルではGR86の兄弟モデルとなっているスバルBRZだが、R&D SPORTが投入する61号車のBRZ GT300「SUBARU BRZ R&D SPORT」は、R&D SPORTが車体、STIがエンジンを開発したまったく別のクルマで、独自路線のGT300車両となっている点も面白い。