この手のクルマがもう1度蘇ってほしい!
商品化の経緯もユニークだ。デザイナーが遊びで描いたスケッチが「これは面白い」という話になって具体化された。車内には乗員を包むような雰囲気があり、「ふたりで楽しむオーディオルーム」というコンセプトも与えられた。
そのために、サウンドマッピングシステムも用意され、8個のスピーカーや360Wのパワーアンプを採用した。吸音ウレタンや制振シートで音響効果を高めたデッドニングキットも用意され、通常の走りでも静粛性が向上して、ドアの開閉音まで重厚になった。
このように、N-BOXスラッシュは軽自動車のスペシャルティカーだから価格も高かった。Xターボパッケージは176万円で、オプションを加えると200万円を超えた。2014年当時では、かなり価格の高い軽自動車であった。
そして、クルマは高額商品で、派生車種でも膨大な開発費用を要する。それなのにN-BOXスラッシュは、計画的な開発ではなく、思いつきやノリで商品化された。常識では考えられないクルマ作りだが、それを可能にするのがホンダの企業風土でもある。
思いつきやノリは、いわばシャレだから、長く続けるとヤボになる。だから2017年に登場した2代目N-BOXに、スラッシュは設定されなかった。2020年まで初代ベースのN-BOXスラッシュを作り続けた。そして3代目の新型にもN-BOXスラッシュはない。
それにしても、最近はN-BOXスラッシュのようなホンダ車が登場していない。2015年に発売され、2022年3月に終了したS660が最後だ。
ホンダのホームページの「カーラインアップ」を見ると、寂しいというか、ちょっと心配になる。