この記事をまとめると
■モータージャーナリストの森口将之さんが1990年代の欧州車感を持った日本車を振り返る
■欧州車らしい見た目ながら質実剛健な雰囲気と性能を持っていたのがトピックだ
■地味な存在だったが、いま見ても独特な雰囲気がどこか輸入車感を感じさせる点が魅力だ
地味だけど1990年代には”なんか良い”クルマがたくさんあった
社会的にはバブルが弾け、自分的にはフリーランスになった直後の1990年代。つまり、浮かれ気分が去って、失われたウン十年が始まったという時代だけれど、個人的にはちょっと旧めのフランス車を乗りまわしていた頃だったこともあって、日本製の実用車の質実剛健ぶりがいまも記憶に残っている。
たとえばトヨタのカムリグラシア・ステーションワゴン。日本で販売されたカムリとしては初の3ナンバー、つまり北米仕様と基本的に同じになった世代で、なおかつわが国で売られたカムリで唯一のワゴン。シンプルなスタイリングと広いインテリアが醸し出す、アメリカ育ちらしい道具感が素敵だった。
似たようなキャラクターだったのが4代目日産パルサーの5ドア。こちらは以前からヨーロッパで主力車種だったこともあり、当時のプジョーやルノーを思わせる、短いノッチをつけたスタイリングが粋だった。この世代のパルサーと言えばGTI-Rがあったけれど、個人的には断然5ドアに惹かれた。
同じようにフレンチテイストを感じたのが、スズキ・アルトの3代目に途中で設定されたハッスル。名前からは想像しにくいけれど、シトロエン2CVやルノー4のフルゴネットを思わせる、リヤに大きな箱をくくりつけたような成り立ち。でもデザインがきれいにまとまっていて、当時「軽自動車を買うならこれだな」と思ったほどだった。
欧州風と言えばもう1台、三菱カリスマも名前ともども忘れられない。ボルボとの共同開発でオランダで生産されたクルマらしく、形も走りもヨーロピアンテイストで、個人的にはランサーエボリューションよりもこっちのほうが好みだったけれど、日本での人気はイマイチだったようだ。
もう1台、マツダのオートザム・レビューも紹介しておこう。やはり欧州風味だった和製フォードのコンパクトカー、フェスティバのセダン版。可愛らしいスタイリングのためにそうは見えないけれど、パッケージングは優秀だった。
当時、マツダはバブル崩壊のあおりを受けて経営状況が厳しく、途中でオートザムを含めた5チャンネル構想の整理統合が決まり、マツダ・レビューに名前を変えたけれど、デミオが出るまでマツダのエントリーを受け持った。可愛い頑張り屋さんだった。
結果的には純日本風ではなく、欧米の影響を受けたクルマばかりを選んでしまったけれど、逆に言えばヨーロピアンだったりアメリカンだったりしつつ、メカは日本車ならではの信頼感というのは、じつは理想の成り立ちと言えるわけで、もっとそのあたりに気づいてくれる人がいても良かったような気がする。