やっぱりホンダは「Sシリーズ」がなきゃダメだろ! 「Sの血統」を振り返ったらすべてが胸熱だった (2/2ページ)

いまでもSのスピリットは受け継がれている

 そんな「S(エス)」の車名がホンダの新車ラインアップに復活するのは1999年のこと。本田技研工業の創立50周年記念企画として1998年に発表されたS2000が、1999年4月に発売された。Sの車名を受け継ぐモデルとして、エンジン、トランスミッション、車体などすべてが専用設計とされた純スポーツカーで、ホンダとしてはS800以来28年ぶりとなるFRレイアウトの車両でもある。

ホンダS2000

 1999年に発売されたS2000は、初代NSXの開発責任者(LPL)として知られる上原 繁さんがLPLを担当。オープンカーでありながら、一般的なクローズドボディと同等以上の剛性を確保するため「ハイXボーンフレーム構造」を採用した。ボンネットとトランクは軽量化のためアルミ製とされるいっぽう、快適性を重視してソフトトップは電動開閉式とされた。

ホンダS2000のルーフ開閉

 エンジンは最高出力250馬力/9000rpmを誇るF20C型2リッターDOHCで、リッターあたりの出力は125馬力に達した。このエンジンは前輪のアクスル(車軸)より後方へとフロントミッドシップマウントされ、前後重量バランスは50:50となっている。

ホンダF20C

 また、S2000の発売当初、かつてNSXの専用工場として建設された栃木製作所・高根沢工場で生産が行われていたことも、S2000の存在価値の高さを裏付けるエピソードといえるだろう。最小限の電子制御デバイスしか備わらないS2000は、まさに往年のSシリーズを感じさせるピュアスポーツカーとして、日本国内はもちろん欧州や北米市場でも人気となった。

 S2000は1999年の発売以来いくどかのモデル追加やマイナーチェンジが行われたが、もっとも大きな変更は2006年のこと。エンジンがF20C型から2.2リッターのF22C型へと改められた。シリンダーのボアはそのままに、ストロークが84.0mmから90.7mmへと延長されたことで、表記上の最高出力こそ下がったものの最大トルクは増加した。この2.2リッターを搭載したS2000はAP2型と呼ばれ、とくにストリートでの実用域では扱いやすさが向上している。

ホンダF22C

 2007年10月には、AP2型として初のマイナーチェンジを実施。電子制御システムVSAが全車に標準装備となったほか、専用エアロやサスペンションを備えた「タイプS」が設定された。このマイナーチェンジ仕様車はAP2-110型と呼ばれ、10年余りのモデルライフとなったS2000の最終仕様となった。

ホンダS2000タイプS

 そして2023年現在、Honda SPORTSをルーツとする「S」シリーズとして最後のモデルとなっているのがS660だ。2015年に発売されたS660は、BEAT以来約19年ぶりとなる軽2シーターオープンスポーツカー。これまでのSシリーズと異なるのは、エンジンをドライバーの背後に搭載するミッドシップマウントとしたことだ。必然的にエンジンは横置きとなり、そのエンジン自体も660ccの3気筒で、Sシリーズでは初となるターボユニットとなっている。

ホンダS660

 このS660で特筆すべきは、Sシリーズでも、そして軽オープン2シーターとしては先代モデルにあたるBEATでも存在しなかった2ペダル車両を設定したこと。スポーツカーといえば3ペダルMTという固定概念に捉われないという点では、スーパースポーツのNSXにも通じるが、CVT車を設定したことによりオープンスポーツの楽しさを多くの人々に伝えることとなった。

 MT車は軽自動車としては初の6速MTを搭載していたが、CVT車はスポーツモードへ切り替えが可能な7速パドルシフト付CVTとなっており、スポーツカーとしての濃度はほぼ互角。それでいてCVT車のみアイドリングストップ機構が備えられており、JC08モード燃費は6速MT車の21.2km/Lに対してCVT車は24.2km/Lに達している。運動性能だけでなく、環境性能にも優れたスポーツモデルという点で、時代に即したSシリーズの新たな姿といえるだろう。

ホンダS600のAT仕様車

 ホンダの自動車史を語るうえで欠かせないHonda SPORTSのSシリーズだが、このように振り返ってみると、いわゆるグレード展開が極めて少ないモデルであることに気づく。S360/500/600/800はもちろん、S2000にしてもS660にしても、細かな装備の違いはあっても車種のバリエーションは決して多くない。

 S660にはホンダアクセスが開発したModulo X、またM-TEC(無限)が手がけたMUGEN RAというコンプリートカーが発売されたものの、どちらもエンジンには手が入れられていない。もともとスポーツカーとして専用開発されたのがSシリーズだからか、ベース車両の運動性能を徹底的に磨き上げる「タイプR」は、S2000にもS660にも設定されていなかった。

ホンダS660モデューロX

 ホンダは2030年に日本国内の新車ラインアップをすべて電動車(EV、HV、PHEV)にするという目標を掲げている。2023年のジャパンモビリティショーでは電動スペシャリティカーとしてプレリュードコンセプトが披露されたが、同様に電動フラッグシップスポーツも開発中であることが、以前より明らかにされている。

ホンダプレリュードコンセプト

 来たる電動化時代にHonda SPORTSのフィロソフィを受け継ぐ新時代のスポーツカーは、Honda SPORTSを車名に冠するSシリーズの最新モデルか、あるいはスーパースポーツであるNSXの後継モデルなのか。もし次世代Sシリーズであるならば、歴史上初となる「Sシリーズ×タイプR」という究極のHonda SPORTSの登場はあるのだろうか。その全貌が明らかになるときが待ち遠しい。


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