サーキットでは公道テスト以上のデータ取りができる場面もある
やがて、筑波サーキットでの市販車走行テストは大きなブームとなって、ベストモータリングというビデオ媒体では「バトル」と題して速さを競う企画が大ヒットしたのである。
サーキットで走らせると、そのクルマが持っている性能を明らかにできる。動力性能だけでなくハンドリングやブレーキ性能、耐久性などバランスよく仕上げられていなければすぐにボロがでる。ごまかしが効かないので多くの国産車メーカーはスポーツカーの開発テストを筑波サーキットでも行なうようになっていくのだ。
真っすぐ走るだけなら最速を記録できるハイパワーマシンが、サーキットではコーナリングGによりエンジンオイルが偏り、潤滑不良でエンジンが焼き付いて壊れてしまったということもあった。ブレーキの耐フェード性は重要で、何周も安定したブレーキ性能を発揮させるためには、ベンチレーテッドディスクブレーキに冷却エアを導くエアガイドの装着も不可欠になっていく。
オイルの偏りは制動時の減速Gによっても引き起こされ、とくにエンジンを横置きするFF車にはオイルパン内にバッフルプレートを追加する処置が必要だとわかる。同時に燃料タンクの形状や燃料パイプのレイアウトも吸い込み不良を回避するように設計されていなければならない。燃料タンクに半分以上燃料が入っていても、サーキットでは横Gで片寄り、吸い込み不良でガス欠症状が出てしまう。こうした現象に対処するために試行錯誤が繰り返される。
「自分はサーキット走行などしないから、サーキットでの性能なんてどうでもいい」という人も実際に多いし、自動車メーカーのなかにもそうした考えの経営者がいる。
近年、環境性能を第一義と捉え、限界性能は二の次と考える風潮となっているのは残念なことだ。取材車両でのサーキット走行テストを禁じている自動車メーカーも圧倒的に多くなった。サーキット走行でボロが晒されなければコストダウンもできる。過剰なブレーキシステムもサスペンションも不要とばかりに牙を抜かれた”自称”スポーツモデルが増えてしまった。
「サーキットを10周もすれば一般道の10万km分のデータが取れる」、と勇んでいたエンジニアの多くが職を離れ、現役世代にはほとんど見られなくなってしまった。それでもなお、サーキットでテスト走行することは速さを目的とするだけでなく、走行安全性の確保や定量化など重要な役割があると知っているメーカーもある。
出来上がったクルマを走らせてみると、サーキットで磨き上げられたかどうかがわかる。サーキット生まれであるなら、それは大きな安心感と高い耐久性を与えてくれ、ユーザーに大きなメリットとなるに違いないのだ。