日本メーカーは「内燃機関の経験」が足枷になっている! テスラ・ヒュンダイ・BYDが優位に立てるワケ

この記事をまとめると

■EVは低重心で前後重量配分50:50の理想的な車両構成を構築しやすい

■EVの普及でどうすれば特徴を示すことができるのかを再考しなければならなくなった

■テスラやBYDやヒョンデが先進的と感じる理由は、EVの理想像を創造できているからだ

EVでメーカーの特徴をアピールしにくくなった

 2009年に三菱自動車工業からi-MiEVが発売されて以降、電気自動車(EV)の車両構成は客室床下に駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載しており、これにより低重心なクルマとなる。また、客室という車体の中央に重いバッテリーを搭載することにより、前後重量配分が自動的にほぼ50:50になることが示された。

 i-MiEVは後輪駆動だが、その後に発売された日産の初代リーフが前輪駆動であったように、駆動方式は前輪でも後輪でも自在に設計できることも、あとから登場する各社EVを見れば明らかだ。長年にわたり世界の小型車の規範として語られてきたゴルフをはじめ、ホンダもボルボも、エンジン車では前輪駆動を用いていたが、EVでは後輪駆動に切り替えるといったことが起きている。

ホンダeのEVパワートレイン

 クルマとして操縦安定性や乗り心地に関係の深い、低重心/前後重量配分/駆動方式が、EVになることでより理想的な状態にほぼすべてのEVで実現できることになった。一充電走行距離への不安が語られてきたが、EVは、クルマとしての基本性能において、エンジン車以上に理想的な存在となりえるのである。

 それによって、エンジン車時代に50:50の重量配分にこだわったり、後輪駆動にこだわったりしてきた自動車メーカーは、改めてどのようなEVが自社の特徴を示すことができるのかを再考しなければならなくなった。その迷いが近年のEVで現れている。スポーティであるとは何か、爽快な運転をもたらしながら独自性をいかに示すことができるかが、不透明になりつつある。

メルセデスAMG EQS53の走行写真

 ほかにも、EVは充電を含め、通信によって外部との相互情報交換が不可欠であり、いかに車内で情報通信を活かした利便性を高めていくかという面で、既存のEVはまだ十分な装備や性能を実現しきれていないともいえる。

 最先端を行くのは、やはり米国のテスラだ。象徴的な大型画面ひとつでほとんどの情報提供や車両設定の変更などができるEVは、まだそれほど多くない。なぜかといえば、人間と機械の接点、いわゆるヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)として最良の姿が十分に研究・開発されていないからだ。

テスラ・モデルSのインパネまわり

 HMIをただ突き詰めればよいのではなく、車内で人はどのような行動をし、何を頼りに操作をしているかという、原点となるクルマの基本操作やそれにともなう人間の心理を、電子制御を駆使したHMIへ落とし込む作業が必要であり、そのためには、EVが単にエンジン車の代替ではなく、電気ですべてが動くクルマとは何かという利点の認識と理解が不可欠なのである。

 なぜ、テスラやBYD、あるいはヒョンデが先進的かといえば、エンジン車の概念にとらわれることなく、EVの理想像を創造できているからだろう。

BYD ATTO3の走行写真

 これは単に、家庭用電化製品の産業などもEVに参入できるといった産業形態の話ではない。ゼロからEVを見つめる姿勢が求められるということだ。その視点が、まだ多くの歴史ある自動車メーカーには、エンジン車での経験があり過ぎることで欠けているのである。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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