電動ガルウイングにマイルバンパー! いまなおカルト的人気を誇る「ブリックリンSV-1」はスバル・オブ・アメリカを創業した男が作ったモデルだった (2/2ページ)

いまなおカルト的な人気を誇るスポーツカー

 一方で、カーデザインにはクライスラーやフォードで腕を振るったハーブ・グラースを起用。彼はバットマンのTVシリーズ向けにリンカーン・フューチュラをベースにしたバットモービルを作ったことでも知られているデザイナー。ちなみに、SV-1のテールランプは、彼が愛用していたデ・トマソ・パンテーラの部品を流用(そもそもはアルファロメオ用)しています。

デ・トマソ・パンテーラのリヤまわり

 また、電動ガルウィングドアはブリックリン氏からのリクエストだそうで、横転時の脱出を危惧したグラース氏がそれを指摘すると「リヤハッチから出ればいい」とブリックリン氏はこともなげに言い放ったそうです。このあたり、安全性重視なんだか、スタイル優先なんだか、クセの強い人物にありがちかと(笑)。

ブリックリン SV-1のサイドスタイリング

 そして、当時の先端素材だったFRPボディの採用まではよかったのですが、着色したアクリル樹脂とグラスファイバーのサンドイッチ材というのが難航した模様。はじめからボディカラーになった外装パネルとすることでペイントのコストが抑えられると期待したものの、異素材どうしの密着性やアクリルパネルの脆弱性は現在でもSV-1の弱点として挙げられるほど。しかも、工程上どうしても分厚いものになってしまい、重量増もバカになりませんでした。

 AMCの5.9リッターV8エンジン+3ATを装備すると1597kgと、当時としては重量級。ゆえに、パフォーマンスはお世辞にも速いとは呼べず「ローズボウルパレード(カレッジフットボール開催時に行われる有名なバラのパレード)の行列も追い越せない」との酷評までいただくことに。もっとも、このパッケージはデビューイヤーの1974年モデルで、翌年からはフォードの5.8リッターV8ユニットへと変更、あわせてATもフォード製FMX3速に積み替えられています。

ブリックリン SV-1のフォード製V8エンジン

 シャシー、フレームについてもエンジニアリング的に見劣りするようなポイントもありません。フロントはウイッシュボーン、リヤにはホッチキスシステムと呼ばれるリーフリジッドというサスペンションで、ケルシー・ヘイズ製、またベンディックス製のブレーキを装備。いずれも、当時のアメリカではスタンダードと呼べるレベルで、V8をフロントに積んだ2シーターはSV-1のほかにコルベットしかなかったのですから、もうちょっと売れてもいい気がします。

 そのためなのか、ブリックリン氏はSV-1をアリゾナ州スコッツデールの警察署に3台を貸し出すことに。リース料は1台1ドルという宣伝にほど近いものでしたが、パトカーのカラースキームを採用し、回転灯を装備して納めた模様。ですが、猛暑で知られる同地のことですから、バッテリーがすぐに音を上げてしまい、例のガルウィングが作動しなくなるトラブルが頻発。ついには、広報活動などでしか使われないという始末に(笑)。

ブリックリン SV-1の警察車両

 結局、ニューブランズウィック州からの支援も途切れ、また従業員のストなど製造面でも逆風にさらされてしまい、1976年をもって生産終了。ブリックリン氏はSV-1の後継モデル「チェアマン」まで準備していたようですが、あえなく撃沈。

 ただし、SV-1の人気はそれなりに続き、1978年には軽自動車メーカーのF.Wアソシエイツがライセンスを購入して、子供向けミニチュアカーを製作。3馬力のエンジンが搭載されており、オリジナルのSV-1オーナーならば、同じシリアルナンバーを打刻して納品というシャレた逸品でした。

ブリックリン SV-1の子供向けミニチュアカー

 そのほか、カルトムービーで知られる「ジャンクマン」に登場した際は海に落ちるという役柄ながら、いまでも語り継がれているとか。

 やはり、クセ強なクルマというのは、いつまでたっても人気が衰えない、というか存在感バッチリということにほかなりませんね。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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