この記事をまとめると
■エンジンの部品類のなかでもあまり目立たない存在の「ラジエターキャップ」
■じつは『ただのキャップ』じゃないほどの大きな役割を担っていた
■社外品への交換や交換頻度の目安も合わせて解説
冷却水の補充用に使用するだけじゃないラジエターキャップ
今年の夏はいつにも増して暑さが厳しい期間でした。気温が高めな地域やクルマの使用状況によってはオーバーヒートの心配がちらほら頭をよぎったケースがあったかもしれません。メカに詳しい人は、電動ファンが作動する頻度が多くなった状況から、エンジンルーム内の温度の上昇を感じた人もいたことでしょう。
ひと昔前までは、路肩に停車しているクルマのエンジンルームから湯気が上がっているというシーンをたまに見かけたものです。それは、エンジンの冷却能力の限界を越えて「オーバーヒート」を起こしてしまい、ラジエターキャップやリザーバータンクから蒸気が漏れた状況です。
いまはエンジン冷却などの設計が良くなってきたことで、そういうシーンを見かけることはかなり少なくなりましたが、気温の上昇が顕著になってきたこともあって、オーバーヒートの可能性は残っていると思います。とくに中古車を購入した場合は、夏本番を迎える前までに冷却系の状態を確認しておくことをオススメします。
■ラジエターキャップ、点検してますか?
そして、その冷却系の温度管理に重要な役目を負っているのが「ラジエターキャップ」なんです。
おそらくほとんどの人が「ああ、そんなパーツがあったなぁ」という感じで、あまり気にかけていない部品のひとつだと思います。そして、ラジエターキャップが消耗品だという認識をもっている人もそう多くはないのではないでしょうか。
■ラジエターキャップの役割とは?
自分である程度クルマの整備をするという人でも、その何割かはラジエターキャップがただのフタだと思っているのではないでしょうか。
ラジエターキャップの役割をひとことで言うと「冷却経路の圧力を管理してエンジンのオーバーヒートを抑えてくれる部品」となります。具体的な働きを見ていきましょう。
働きその1:冷却水の沸点を上げる
水が沸騰する温度が100度というのはほとんどの人が知っていることだと思います。でもこれは周囲が1気圧の状態の温度です。気圧が上がると沸騰時の気泡の発生が抑えられるので、結果として沸点が上がります。圧力鍋はこの原理を使って高温高圧で煮込むことで調理の効率を高める道具です。
具体的には、大気圧に1kg/cm2加圧したとき、水の沸点は120度を越えるくらいにまで高まります。標準的なラジエターキャップの場合は0.91kg/cm2(88kPa)という加圧設定なので、水を入れた場合の沸点は120度弱に設定されます。さらには、エンジンの冷却水として使われる「LLC(ロングライフクーラント)」は、その成分によって水より沸点が高くなっています。製品によりバラツキはありますが、だいたい120〜130度(1気圧の状態)です。これに圧を加えることで、さらに沸点は高まるので、実際は130〜140度くらいになっていると思われます。
こうして沸点を高くすることで、エンジン内の気泡の発生を抑えて冷却の効率を高く維持できるようにしているのです。
働きその2:高くなりすぎた圧力を逃がす
ラジエターキャップに備わった「加圧弁」が、上記のように冷却水の圧力を高く保つ役割を持っているのですが、何らかの不具合によってその沸点を超えてしまった場合はどうなるでしょう? 液体は沸騰して気体になると体積が大幅に大きくなります。密閉された経路内で体積が増えると、比例して圧力が高くなります。圧力の逃げ場がないと、弱い部分から漏れたり破裂したりしてしまいます。そのトラブルを防ぐために、加圧弁が設定した圧力値で圧を逃がすように設計されているのです。
加圧弁で逃がされた冷却水は、バイパスパイプを通ってリザーバータンク(補助容器)に送られ、いったんそこに留めて置かれます。
働きその3:ラジエター内の減った冷却水を補充する
役割の3つめは、ラジエター内の冷却水が減った分を補充するということです。エンジンの発熱が大きくなって冷却水の圧力が高くなり、沸騰して膨張したぶんが加圧弁からリザーバータンクに逃がされたあとで、エンジンの熱が落ち着くと、今度は逆に冷却経路内の圧が下がります。圧が下がってしまうと、せっかく加圧によって沸点を上げた状態にしているのにその沸点が保てなくなります。そのときにリザーバータンクから逃がした分の冷却水を戻す役割も、ラジエターキャップには備わっています。こちらは「負圧弁」と呼ばれていて、なかからの圧力は止めますが、外からなかに入る分には弱い力で通すように設定されています。