鉄腕アトムの世界のようなアルファロメオはなんと3台で15億円! 「BATシリーズ」は大マジで作られた研究車両だった (2/2ページ)

3台が一堂に会する機会をファンは待ち望んでいた

 ファーストモデルのBAT 5は空気抵抗の最小化や高速域での安定性を考慮し、4つの実物大モデルを経て最終段階の金属加工へと進んだモデルである。突出したポンツーンフェンダーや丸みを帯びたセンターノーズは、ボンネット上に気流を導くためにも機能するデザインとされたほか、フィンはテーパードしたリヤに向かって緩やかにカーブ。リヤセクションセンター部のデザインでエアはさらに安定する仕組みとなっている。

アルファロメオBAT 5のフロントスタイリング

 そのルックスはいささか過激な印象だが、オンロードでの実用性を考慮してボディが設計されていたのも見逃せない特長。ちなみにBAT 5はわずかに43馬力というパワースペックながら、198km/hの最高速を記録。注目のCd値は0.23を達成している。

アルファロメオBAT 5のリヤスタイリング

 続いて1954年に製作されたBAT 7では、スカリオーネにはBAT 5のさまざまな特徴的なディテールをさらに強調するように求められた。フロントのエアインテークはさらに強く絞り込まれ、ボンネットはより低く、そしてテールフィンもさらに長く手直しが行われた。これらの作業によってBAT 7のCd値は0.19にまで向上している。

アルファロメオBAT 7のフロントスタイリング

 BATシリーズの最終作となったBAT 9dは、アルファロメオから、より実用的なロードユースを目指すことを指示されたコンセプトカーだった。テールフィンは小型化され、リヤホイールスカートも廃止。フロントグリルにはアルファロメオのエンブレムを掲げたグリルが備わるようになった。

アルファロメオBAT 9dのフロントスタイリング

 主要なメカニズムはこれまでのBAT 5やBAT 7と同様にアルファロメオ1900。トリノショーの会場で、あるいは世界各国のメディアを通じて、その量産化を期待して熱い視線が集まったのは、言うまでもないところだ。

 発表後、BATシリーズはそれぞれに異なるカスタマーへと売却されることになるが、それだけにひとつだけ叶わなかった夢があった。それは3台のBATを一堂に展示する機会を設けることで、その意義の大きさに気づいた個人コレクターが当時のオーナーへと連絡し、この3台を購入。1990年代前半にヨーロッパのいくつかのイベントでその夢が実現したほか、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスやヴィラ・デステ・コンコルソ・デレガンツァなど、世界的なモーターイベントにも姿を現すようになった。

アルファロメオBAT 5とBAT 7とBAT 9dのフロントスタイリング

 その後、3台のBATシリーズは、2020年10月に開催されたRMサザビーズ社の「コンテンポラリー・アート・イブニング・オークション」に3台セットで出品され、じつに148万4000ドル(当時のレートで約15億5820万円)という、戦後のアルファロメオとしては史上最高額となる価格で落札された。

 はたして次に我々が3台のBATシリーズを一堂に目にできるのはいつになるのか。いまはその日が訪れることを楽しみに待ちたい。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
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