3台が一堂に会する機会をファンは待ち望んでいた
ファーストモデルのBAT 5は空気抵抗の最小化や高速域での安定性を考慮し、4つの実物大モデルを経て最終段階の金属加工へと進んだモデルである。突出したポンツーンフェンダーや丸みを帯びたセンターノーズは、ボンネット上に気流を導くためにも機能するデザインとされたほか、フィンはテーパードしたリヤに向かって緩やかにカーブ。リヤセクションセンター部のデザインでエアはさらに安定する仕組みとなっている。
そのルックスはいささか過激な印象だが、オンロードでの実用性を考慮してボディが設計されていたのも見逃せない特長。ちなみにBAT 5はわずかに43馬力というパワースペックながら、198km/hの最高速を記録。注目のCd値は0.23を達成している。
続いて1954年に製作されたBAT 7では、スカリオーネにはBAT 5のさまざまな特徴的なディテールをさらに強調するように求められた。フロントのエアインテークはさらに強く絞り込まれ、ボンネットはより低く、そしてテールフィンもさらに長く手直しが行われた。これらの作業によってBAT 7のCd値は0.19にまで向上している。
BATシリーズの最終作となったBAT 9dは、アルファロメオから、より実用的なロードユースを目指すことを指示されたコンセプトカーだった。テールフィンは小型化され、リヤホイールスカートも廃止。フロントグリルにはアルファロメオのエンブレムを掲げたグリルが備わるようになった。
主要なメカニズムはこれまでのBAT 5やBAT 7と同様にアルファロメオ1900。トリノショーの会場で、あるいは世界各国のメディアを通じて、その量産化を期待して熱い視線が集まったのは、言うまでもないところだ。
発表後、BATシリーズはそれぞれに異なるカスタマーへと売却されることになるが、それだけにひとつだけ叶わなかった夢があった。それは3台のBATを一堂に展示する機会を設けることで、その意義の大きさに気づいた個人コレクターが当時のオーナーへと連絡し、この3台を購入。1990年代前半にヨーロッパのいくつかのイベントでその夢が実現したほか、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスやヴィラ・デステ・コンコルソ・デレガンツァなど、世界的なモーターイベントにも姿を現すようになった。
その後、3台のBATシリーズは、2020年10月に開催されたRMサザビーズ社の「コンテンポラリー・アート・イブニング・オークション」に3台セットで出品され、じつに148万4000ドル(当時のレートで約15億5820万円)という、戦後のアルファロメオとしては史上最高額となる価格で落札された。
はたして次に我々が3台のBATシリーズを一堂に目にできるのはいつになるのか。いまはその日が訪れることを楽しみに待ちたい。