普及するだけじゃ無責任! 日産以外は遅れてる! EVに必須の「リチウムイオン電池」のリサイクル問題の現状

この記事をまとめると

■EVのリチウムイオンバッテリーの再利用を本気で考え実践しているのは日産だけ

■日産自動車は再利用のために4Rエナジー社を設立し、バックアップ電源用蓄電池として提供している

■リチウムイオンバッテリー再利用は手間のかかる作業であり、降ろせば再利用できるというわけではない

バッテリーの再利用には問題が山積み

 EV後のバッテリーの扱いについて、真剣に考え、行動を起こしているのは、日本の日産自動車しかないといっていいだろう。

 日産は、2010年に初代リーフを発売する前に、リユースやリサイクルを専門に行うフォーアールエナジー(4R ENERGY)社を設立し、EV後のリチウムイオンバッテリーの取り扱いに責任を持つ意志を表明した。

日産が設立した4R ENERGY社

 フォーアールの意味は、4つの言葉のRという頭文字をさし、リユース(Reuse=再利用)/リセル(Resell=再販売)/リファブリケイト(Refabricate=再商品化)/リサイクル(Recycle=再資源化)である。

 リユースでは、すでに日産は初代リーフについて、廃車される車両から降ろしたリチウムイオンバッテリーパックを分解し、モジュールごとに品質を検査し、品質に応じて3つの段階に種別をわけ、もっとも高い品質を保っているAグレードを、初代リーフのバッテリー交換用として展開している。

日産リーフからリチウムイオンバッテリーを取り出している写真

 リセルについても、廃車から降ろしたバッテリーの品質点検を済ませたうえで、リチウムイオンバッテリーを、バックアップ電源用の蓄電池として提供している。たとえば、JR東日本の踏切のバックアップ用として、万一の停電に際しても踏切が機能するようにしている。かつては鉛酸バッテリーを使っていたが、中古とはいえリチウムイオンバッテリーを使うことで、短時間(約3分の1)の充電と、10年に及ぶ寿命の長さを見込んでいる。

日産リーフのバッテリーが再利用されている常磐線の愛宕踏切

 リファブリケイトでは、先ごろ日産が公開したJVCケンウッドと共同でポータブル蓄電池に活用し、新商品として市販している。それは、中古バッテリーの再利用ではあるが、再商品化ということで、ポータブル蓄電器自体は新商品として販売している。価格は、既存の市販品に比べやや高めとはいえ、クルマ(EV)で使ってきた耐久・信頼性により、自治体や法人などでの災害対策用などとして期待されている。もちろん、個人が使うこともできる。

日産リーフのリチウムイオンバッテリーを利用したポータブル蓄電池

 最後のリサイクルについては、まだ再資源化のめどが立っていない。しかし、メルセデス・ベンツがドイツに工場を今年立ち上げ、2020年代中に、技術を構築するとしている。

 あと7年のうちにリサイクル技術が完成するとして、その間はどうするかといえば、4R社がやっている残りの3つのRを、世界の自動車メーカーが取り組むことだ。

 いま、世界的にEVへの移行が急速に進もうとしているが、日産と4R ENERGY社、あるいはメルセデス・ベンツのような行動を明らかにしている企業は限られる。一部に、EV後のバッテリーパックを再利用する試験的動きはみられるが、日産と4R ENERGY社のように、セルに近いところまで細分化して品質を検査しなければ、資源を使い尽くすことにはならない。なぜなら、バッテリーパック内のリチウムイオンバッテリーは、1セルごとに程度に開きがあるからだ。その検査技術も、日産と4R ENERGY社は何年もかけて開発した。それほど手間のかかる作業なのである。

バッテリーパック内を検査している写真

 EVから降ろしたバッテリーパックをただ再利用すれば済むというほど簡単ではない。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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