この見た目で「ガチに走る」ことを考えて設計だと!? 日産HYPER FORCEはナニモノなのか関係者を直撃した! (2/2ページ)

BEVのスーパースポーツは人間の手足に近くなる

 話はゲーム画面のようなインパネが目立つインテリアにも及ぶ。成田さんが続ける。

「GUI(グラフィカルインターフェース)はR35のマルチファンクションディスプレイに続いてポリフォニーさんとの共同作業になります。このコックピットがイメージしているのはARとVR、リアルとバーチャルのシームレスな体験。簡単に言えばクルマの中でVRゴーグルをしてゲームが出来ますよ、ってことに近いのですが、僕らは、そのゲーム(VR)で得た知識とか経験を、現実世界も映し込んだ半透明のARゴーグル越しにフィードバックさせてみたいんです。たとえばVRで体験した理想のコーナーラインやVRで走らせたクルマをゴーストとしてAR上に表示するのも面白いでしょうし、VR中の自車と、リアルに今自分が走らせているクルマと対決することもできます」。

日産HYPER FORCEのコックピット

 そうしたエンターテイメント的な側面に加えて、目指したのはもうワンステップ上のラインだとも成田さんは言う。

「映画『グランツーリスモ』の世界を連想してもらうと良いかもしれません。あれはゲームのトップレーサーを引き抜いて、実車のレーサーにするという実話に基づいていますが、そうなるとひと握りの人間にしか選ばれない。でも、このクルマを手に入れれば誰でも実際にそういったシミュレーションや体験が出来て、グッと垣根を下げて安全かつリアルにハードなスポーツ走行も出来ますよ、ってことを提案したいんです。とくにターゲット層となるジェネレーションZのマインドセット――スゴイ楽しい想いはしたいけど、リスクは採りたくない。リスクを最大限コントロールした上でのファンじゃなければ意味がない。それじゃないと馬鹿らしく見える――にも訴求出来たらなと」。

 HYPER FORCEは圧倒的なコーナーリング性能、そしてARとVRのシームレスな体験を目指しているというのは、ここまでの成田さん、山本さんのお話からもお分かりいただけると思うが、もうひとつ、大きな柱があると成田さんは言う。

「安全性能です。とくに今の若い世代は良くも悪くも冷静で、ただバカッ速いクルマはくだらないクルマに思えてしまう。速いだけでは意味がないんですね。そこで出てきたのが、まわりのシチュエーションをクルマが理解して、クルマが自律的に判断して安全性を確保するという考え方ですね。頭脳をもって、運転している人の意志も理解するクルマ。話しかけたら会話もできる、TVドラマ『ナイトライダー』のK.I.T.Tみたいな設定にはなっていませんが(笑)  自動運転といったところまで含めて考えていきたいですね」。

日産HYPER FORCEのフロントスタイリング02

 ただそう聞くと、スーパースポーツに必要不可欠な“操る楽しみ”がスポイルされてしまうのではないか。その懸念に対する成田さんの見解はこうだ。

「自動運転は大前提としてあります。たとえばサーキットに走りに行くとなって、おそらく行きは自分で運転していくと思うんですよね。でも、サーキット走行後は疲れますし、帰りは寝たいとか、お茶しながらリラックスして帰りたいなんて要望に応えられたらそれも良いのではないでしょうか。もっと言えば、もし自動運転機構を備えなかったとしても、自動運転の技術ベースは、スポーツ走行時の安全性を担保するにも必要です。だったら自動運転もつければいい、という感覚です。つまり“操る楽しみ”を実現するのと自動運転は相反するものではないんです」。

 またそもそもBEVのスーパースポーツに対して懐疑的な人たちにも伝えたいことがあると成田さんは言う。

「ガソリンエンジン車がなくなったら悲しくありませんか? という意見もよく耳にします。ガソリンエンジン車って何が良いのかっていったら、ハートが鼓動して熱を帯びてくる生き物や馬みたいな感覚、それを操るっていう喜びですよね。一方でEVは神経の延長みたいになる。自分の手足の先、あるいは手足そのものというか。アクセルペダルのフィーリングひとつとってみても、ガソリンエンジン車はそれ踏みこむと、回転があがってからトルクが立ち上がって加速するというタイムロスがありますが、モーターはポンと踏めばそこでトルクはMAXですからね。そういった意味でもっと人間の手足に近くなり、近づけやすいわけで、そこに新しい価値を提供できるようになると考えています」。

日産HYPER FORCEの足まわり

 今回、インタビューをしながら、やや本流と外れた部分でいくつか質問したのだが、思わずニヤリとしてしまったのが、ボディサイドに貼られた金文字の「1000kW ASSB ADVANCED E-4ORCE」のステッカーがどうにもR30型スカイラインの「4VALVE DOHC RS-TURBO」のアレにしか見えないことについて尋ねたときの成田さんの回答だ。

「正解です!(笑)  あと顔つきはR34 GT-R、フロントのエアダムの造形はスカイラインスーパーシルエットをオマージュしています。やはり過去の歴史には価値があると思うんです。このHYPER FORCEを見てスカイラインスーパーシルエットを知っているお客さんが興味を持ってくれるのはありがたいですし、過去に日産の人間が思いを入れて作ったものだから、そこに何かしらのヒントみたいなものがあるんですよ。それを現代流に解釈して作り直すっていうのは新興メーカーにはできなくて、歴史のある僕らだからできる。古くからのお客さんも大切にしたい、未来のお客さんだけじゃないよってメッセージを籠めています」。

 HYPER FORCEをして、あくまでこれはデザインスタディであり、それを次期GT-Rだと騒ぎ立てるのは時期尚早という見方があっても当然だ。だが成田さんの言葉を信じるなら、このHYPER FORCEに次期GT-Rの姿を重ねてもいいのではないかと思えてくる。

日産HYPER FORCEのステッカー周辺

「日産はこういった方向性に関しては本気です。僕らのDNAなんで。日本のメーカーでBEVのフィールドで戦い始めたのも日産が最初だって自負がありますし、欧州メーカーに対してガチンコ勝負でやるっていうマインドセットでやってきた思いっていうのは変わらないですね。皆さんに期待をもっていただきたいからHYPER FORCEを作ったんです」。

 最後に成田さんにひとつだけ尋ねてみた。ではいったいHYPER FORCEをニュルブルクリンク北コース、何秒で走らせる気なのかと。

「ええ! それはさすがに申し上げられませんよ(笑) でも僕の心の中で思っているタイムはあります」。

日産HYPER FORCEのリヤ

 さすがはやっちゃえ日産である。ラフなニュルの路面にへばりつくように走るHYPER FORCEの姿を見ることができるのはそう遠い未来ではないのかもしれない。


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