ロータリーエンジンをフロントミッドに搭載! だが次期ロードスターではない! 「マツダアイコニック SP」が示すマツダの未来とは (2/2ページ)

今後のマツダのデザインを示す一台

 近年のマツダといえばSUVのイメージも強いが、ロータリーとバッテリーを組み合わせたハイブリッドをコンパクトに作るノウハウは、スポーツカーだけではなくSUVその他の車型でも活かせるはずと、佐賀さんは強調する。むしろそれこそが、クルマをコモディティ化させないための武器にすらなるという。

「アイコニック SPが普通の電動車とは違うことを、見てもらいたいんです。“クルマが好き”をどう広げるか? なんです」

マツダアイコニック SPの真正面フロントスタイリング

 ロータリーは復活したが、発電用で駆動用でないことに違和感を述べる“クルマが好き”もゼロではない。その点については、デザイン本部長の中山 雅さんが次のように解説してくれた。

デザイン本部長の中山 雅さん

「使い方はいろいろあると思います。発電機としてカーボンニュートラル燃料もバイオ燃料もいける多様なソリューションでもあるんですが、MX-30のロータリーEVがすべてではありません。アイコニック SPでは……秋の夜長に想像していただきたいところですが、発電機はフロントミッドシップで駆動モーターはリヤアクスル側、つまりトランスアクスルのハイブリッドです。でもプロペラシャフトは……有り無し、どちらにもできますよね。だから物理的にロータリーでドライブシャフトを駆動することも、スポーツモード限定でも、ありえなくはないんです。これ以上は言えませんけど、デザインを眺めてもらってそういう憶測を呼ぶコンセプトであって欲しい、そういうつもりで作っています」

 11年ぶりに復活させたロータリーエンジンを、マツダが他社にはないハイブリッドの独自モジュールとして発展させる、それは確かだろう。アイコニック SPは、どう育てていくのか、マニフェストであり足がかりでもある。

「単なるデザイン・アイコンではなく、技術や生産畑の人たちにとっても、ここを目指そう、そうした指標や目標としてのアイコンと思っています。前任者の前田育男が『靭(しなり)』を提案したように、自分がデザインのリーダーとして今後、マツダのデザインをどうしていきたいか示す一台、それがアイコニック SPです。でも今後の市販車のディティールを詰め込んだものではありません。それらは各車・各モデルのチーフデザイナーがアイディアを出すものですし。心構えというか、これから大切にしていくものをデザインでお見せすること。ですから昨年11月に中長期事業計画を発表した際の動画でも、先行的にお見せしました」

マツダアイコニック SPのフロントスタイリング

 では電動化の時代、スポーツモデルのデザインはどう変わっていくのだろう?

「今は、バッテリーの大きさ=航続距離ですよね。バッテリーは空になっても重量は変わらないので、長く乗れるから大きい電池を載せるのは申し訳ない、航続距離を重さで買うのはいかがなものか。ロータリーEVはその点、日常の走行域をうまくカバーできると思います。あとスポーツカーは冷却穴が多い分、空力がよくないと昔から言われていて、そのためにいろいろなデバイスが開発されました。でも美しさを犠牲にする空力デザインではなく、空力と共存できる美しいデザインでないといけません。マツダのエンジニアたちは魂動デザインの滑らかさを保ったまま、空気を流す技術を開発してくれたんですよ。詳しいことはまだ言えませんが。アイコニック SPはそれこそ今回、ターンテーブルの上で舐めるような視線を浴びるでしょうが、静的状態でも美しいと思える、そんな忘我の時を過ごしてもらいたいです」

 ちなみに中山さんがアイコニック SPのデザインにおいて、もっとも心砕いた部分は、上から見た時のコークボトル・ラインだという。

マツダアイコニック SPのサイドミラー

「今日の手法からするとタブーですらありますが、上からドラマあるデザインにしたかったんです。ショルダーもなく、むしろ古典的な文法に沿っています。あとこれは売り込みですが、世界一、発色にこだわったレッドを外装色に用いています。マツダはこれまでもレッドにこだわってきましたが、量産車じゃない段階の今はヴィオラレッドといいます。花や楽器にまつわる名前です」。

 では逆に、このコンセプトモデルのデザインは今後のマツダ車に、どれほど落とし込まれていくのだろう?

マツダアイコニック SPのヘッドライト

「そうですね、ディティールを拾わないと先ほど申し上げましたが、マネキンに着せた服をそのままもっていくのではなく、骨格の考え方を次のデザインに込めていく、そしてこのコンセプトで見たような驚きを、市販車で実現していくことでしょうね」


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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