この記事をまとめると
■EVやHEVなどの電動化によって車両重量が増加したことを問題視する声がある
■ボディのサイズアップやSUVブームで車両が大型化した際は重量増に対する批評はほとんどなかった
■あらゆる側面で環境に適合できる手段は何かと俯瞰した視点で判断することが大事
電動化によってどんどん車両重量が増すクルマ
電動化をすると、車両重量が重くなる。電気自動車(EV)であれば、車載のリチウムイオンバッテリーが数百キログラムに及ぶし、ハイブリッド車(HV)は、エンジンと変速機のほかにモーターとバッテリーを車載するので、やはり重量増につながる。
そのため、発進・加速で余分なエネルギー消費があるし、重量増の分、タイヤの摩耗や路面への攻撃性が高まり、環境という大きな側面での負の要素も高まるのではないかとの疑問がある。
物理的な要素として、その事実は間違いない。
一方、過去10年以上に及び、衝突安全や消費者の志向の変化によって、衝突安全確保のため大型化した車体による車両重量の増加や、SUV(スポーツ多目的車)人気を通じた4輪駆動の機能追加や大径タイヤ装着による重量増加に対し、環境負荷を高めるのではないかといった批評は、ほぼなかったに等しい。なぜEVだと問題視され、クルマの大型化やSUVでは問題意識が高まらないのか?
EVやHVに対する重量増を要因とした環境負荷への懸念は、その背景に、電動化要請によるエンジン車への批判に対する不安や不満の意識があるのではないか。
たしかに重量増となれば、タイヤはより摩耗するであろうけれど、EVやモーター発進できるHVは、モーターのトルク特性によって発進時のエネルギー消費を抑えられる可能性が高まる。なぜなら、軽くアクセルペダルを踏みこんだだけで動き出すことができるフラットトルクが特徴だからだ。それに対し、エンジンは低回転のトルクが低いので、重量が重くなればよりアクセルペダルを踏みこまないと発進しないし、期待する速度へ高めることはできない。しかしその差は、長年乗り馴れたエンジン車ではあまり意識されることはない。
また、モーターは回生によって速度という運動エネルギーを発電に使い、エネルギー回収できるので、発進と減速という総合的なエネルギーの差し引きで全体の消費を抑えることができる。しかも、回生による減速機会が増えることで、ブレーキパッドの摩耗を抑えられる。EVならエンジンオイルの交換も不要になり、油脂の廃棄がなくなる。
EVやHVであれば環境負荷がゼロかといえば、そう言い切れない。しかし、総合的な視野に立ち、あらゆる側面で環境に適合できる手段は何かと俯瞰した視点で見ていくことが、良し悪しの判断材料になる。
軽量コンパクトが最良とされてきたエンジン車と、電気モーターという原動機を使うEVでは、理想の姿がやや変わっていくかもしれないという見方ができないと、将来像を見誤りかねないのではないか。各論で良し悪しを云々する時代ではないのである。