昔の自動車セールスマンは「何でも屋」だった! 活動制限に縛られるイマドキの新車販売現場が抱える問題 (2/2ページ)

今では自身の利益のために問題行動に走るスタッフも

 また、下取り車もいまほど自分の会社に入庫するのではなく、セールススタッフのネットワークを駆使して高値で処分していたというのもよく聞いた話である。あるセールススタッフをリタイアした人は、「新人のころ、夜遅く上司に内密で同行して欲しいと言われたことがあります。すると、他メーカーのクルマを運転して自分のあとをついてきて欲しいというのです。そして人気のない田んぼの真ん中の道路わきに鍵をつけたままに放置して帰ってきました(知り合いの業者へ転売するため)。なんか怪しいものの取引のようでワクワクしたのを覚えています。帰る途中にご馳走を食べさせてくれたのも覚えています」と話してくれた。

 いまでは運輸支局への勝手な出入りを禁じているケースが多いとも聞くが、過去にはセールススタッフがお得意様に代わって名義変更手続きや、県税事務所へ行き滞納していた自動車税を本人に代わってお金を預かり納税するなどもしていたそうだ。つまり、セールススタッフはサラリーマンでありながら、かなり顧客のために自由に判断し、そして勝手に動きまわっていたのである。顧客のために動くのならまだ許されるかもしれないが、結局、何か悪だくみがあって動くことも少なくなかったので、いまではセールススタッフの活動範囲はかなり制限されるようになっている。

都道府県に設置されている運輸局の受付

 最近でも、いま世間をにぎわせている大手買い取り&中古車販売店へ、会社に黙って下取り予定車を個人的に転売し、売却額の一部を中抜きしてお客に渡していたメーカー系正規ディーラーセールススタッフが結構の数いたというので、いまの時代はよほど長い間の付き合いを経た信頼関係がない限りは、セールススタッフに一任するのはリスクしかないようにも見える。

「お客さまのために」と多くのセールススタッフが勝手に動いていたときといまの最大の違いは、セールススタッフの置かれている立場の違いも大きいだろう。それこそ自由に動けていたころは、新車販売についての台当たり利益、つまりセールスマージンがいまより大きかった。エアコンやオーディオがオプション扱いだった頃でも、これらは確実にオプション装着してもらえるので、それに対するマージンが支払われていた。

古いクルマのエアコンのイメージ写真

 そんなこともあり、ベテランならセールスマージンだけで1カ月生活できたとも聞いたことがある。しかし、いまではカーナビすらディーラーオプションがなくなろうとしている時代。マージン支給についても複雑な条件が提示されるようになり、その額も少なめとなっている。そうなると、悪いことばかり考えてしまう人が出てくるのは人の性ともいえるかもしれない。

 ただ、前述した大手買い取り&中古車販売店では、倫理的な問題や就労環境は別としても高額報酬は約束されていた様子。しかし、報道を見ている限りはお客のことを思ってというよりは、自分たちのために問題行為を行いながら高額報酬を維持していたようにも見えるので、一概に語ることも難しいのかもしれない。

中古車販売店のイメージ写真

 問題行動を起こすのは当事者の倫理観や順法意識に主要原因があるのは間違いない。ただ、そのようになってしまった背景には、いまの日本の世の中には広範囲に余裕がなくなってきていることもあるのではないかと筆者は考えさせられた。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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