これまでの日本のポルシェ911は安すぎた
なぜかといえば、ポルシェお決まりの「最新のポルシェが最高のポルシェ」なるマーケ戦略が功を奏していたからにほかなりません。水冷911の評判がフワフワしているうちに、ヴァイザッハはGT3というRSに代わる硬派モデルをリリースするなどして、空冷のユーザーを上手に誘導したりね。
ですが、996から997へとバトンタッチした頃、つまり2004~2005年になると、空冷911の値上がりスピードが増してきました。これには964から993へのドラスティックなモデルチェンジに似て「911の肥大化」や新車価格の高騰、あるいはポルシェユーザーが多様化したことといった理由が挙げられそうです。
最後の多様化というのは、カイエンやケイマンといった911以外を買い求めるユーザーが増えたこと、それによって旧来の911ユーザーがポルシェというブランドに対する距離を置き始めたということ。極端なことをいえば「女子どもはともかく、男は黙って空冷911」みたいなニュアンスでしょうか。
当然、2005年以降は空冷どころか996の役付き(GT3やクラブスポーツ)まで中古車の人気が急上昇してくるのですが、ここで注目したいのが964カレラ2とてデビューから15年を経ているわけで、すでに立派なクラシックスポーツとなっていること。先代の930に至っては何をかいわんやで、店頭に並べて売り物にしようとすれば相当なメンテナンスコスト、部品代がかかるわけです。
つまり、911の中古車価格はタマが古くなればなるほど高くなるのは当たり前なのです。
それでも、ロータスやアルファロメオ、TVRなんて同年代のスポーツカーに比べて値上がり率が高いというのは、911の強力なブランド力といわざるを得ません。むしろ、かつての日本はちょい古911が安かったことで世界中のバイヤーが狙っていたほど。
たとえば、国内にあったグループ4のホモロゲモデル、934が30年ほど前に800万円でスイスに売られ、そのバイヤーは3000万円で転売したとか、964RSのワンメイクレース用トリムが装着された並行車も20年ほど前に700万円で買い取られ、ヨーロッパのオークションで1600万円の落札価格となるなど、転売ヤーにとって日本はいいカモだったといえるでしょう。「スーパーカー並みに高い」という状況になったのは、日本の市場価格が欧米並みになったに過ぎないわけです。
古くなっても空冷911は、市場のマインドや点検整備、あるいは911というイニシャルでもって今後も値上がりを続けていくに違いありません。美味しい肉まんが年を追うごとに値上がりしていくのと同様、欲しいという顧客がいる限り売り手が値上げしていくのはもっともな理屈といえるのではないでしょうか。