まさかの大都会なのに駐車場所を忘れて凍死寸前! 自動車ライターが経験したクルマとんでも事件簿【山崎元裕編】 (2/2ページ)

治安が悪い街で乗ってきたクルマが行方不明!

 そうして始まったデトロイトショーの取材。当時はまだプレスキット(各社が用意してくれる、原稿を書くための資料のようなもの)は紙モノが主流で、ブースをまわるたびにその重量が加速度的に増えていく。プレスセンターで配布されていたミシュランの大型バッグもみるみる満タンになり、午後7時頃には初日の取材は終わった。

 満身創痍とはまさにこのことを言うのだろう。とにかく食事をして、ホテルに帰って、ベッドで横になりたい。そう思いつつレンタカーへと根性で歩を進める。けれどそのレンタカーがない。だいたいパーキングビルのどのフロアのどのあたりに駐車したのかも覚えていないし、半ば思考を停止していた脳は、車種もライセンスプレートも、色さえも覚えていないのだ。ホワイトといわれればホワイト、グレーと言われればグレー、シルバーならばシルバー、ブルーならばブルーという、それはかなり曖昧な色だった。

アメリカの屋内駐車場のイメージ写真

 ちなみにその年のデトロイトや北米には、カナダとの国境であるデトロイト川が凍ってしまうほどの寒波が襲来。だから飛行機も遅れてしまうわけである。きちんと駐車場所を確認しておかなかった自分を恨み、レンタカーの車種さえ覚えていない自分を馬鹿だと思い、そしてコートさえ着ないで会場へ向かった自分を後悔した。けれどもクルマは探さねば。このままでは凍死は間違いないし、当時のデトロイトの治安はこれ以上ないくらいに悪かったのだ。

 途方に暮れながら、重いプレスキットの入ったバッグを肩から背負い、パーキングロットをローラー作戦で大捜索する。途中でレンタルカーのキーホルダーにライセンスナンバーが書かれているのを発見、しかもそれはミシガンではなく、たしかオハイオ州のナンバーだったため、捜索スピードは飛躍的に速くなったものの、それでも意識が徐々に遠のいていくのがわかる。

「これがあの低体温症なのか!?」と思った瞬間、捜索から約1時間をかけてオレはついに自分のレンタルカーを発見した。ドアも開けばエンジンもかかれば、ヒーターからの温かい空気も流れてくる。あぁ、クルマって便利な乗り物なのだなぁと、改めて感じた次第だ。

ライセンスプレートを装着したレンタカーのイメージ写真

※写真はイメージ

 以来反省して、空港やショッピングモールなどの大きな駐車場では、駐車時に写真を撮るようにしているが、それでもまだときどき場所や車種を忘れ、空港駐車場をさまよう姿が目撃されている私なのであります。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
好きな有名人
蛯原友里

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