この記事をまとめると
■アメリカ車初のリトラクタブルヘッドライトを装着したコード810/812
■独特なノーズデザインから「棺桶の鼻」と揶揄された
■1年ほどで製造中止となったが希少ゆえに現在は人気の高いモデルとなっている
日本では木炭自動車の時代に生まれたコード810
建築マニアならずとも、ル・コルビジェの名は耳にしたことがあるかと。機能に基づいた美しさは、現在でも高く評価され、数々のフォローが生まれた建築家です。そして、コルビジェの影響はなにも住まいやインテリアにとどまることなく、1930年代のクルマにも強い刺激をもたらしました。
とりわけ、ゴードン・ビューリックはコルビジェに心酔していたようで、彼の代表作とされるコード810/812は、世界初のリトラクタブルヘッドライトなど、先進的な機能にあふれたもの。古き良きアメリカのクルマ、そのひと言では済まされない珠玉の一台をご紹介しましょう。
なかなか耳に馴染みのない「コード」というブランドですが、そもそもは100年ほど前にエレット・コード氏がインディアナポリスの地でクルマ作りを始めたのがきっかけ。
当初は、オーバーン(これまた100年以上前に同じくインディアナポリスで創業した自動車メーカー)のシャシーに、自社のボディを架装していたのですが、1930年代にコード氏はオーバーンを買収(ほぼ時を同じくしてデューセンバーグという高級車メーカーも買収しています)。当時、ビューリックはすでにオーバーンでもっとも有名なボートテール・スピードスターを作り上げるなど腕を振るっていました。ちなみに、ビューリックは25歳という若さでデューセンバーグのチーフデザイナーを務めるなど、才能を早くから発揮していたようです。
ところで、1936年といえば、日本はガソリン不足で木炭と炭で走る木炭自動車が、ヒイコラしていたタイミング。コード810はそんなタイミングで発売されたのですが、かの地では拍手喝采をもって迎えられたものの、独特なフロントノーズの形状から「棺桶の鼻」なるニックネームを頂戴することに。
コード810では、前輪駆動(世界初は1929年のシトロエン・アヴァン)が導入されているのですが、車軸の前にミッション、後ろにエンジンという独自のレイアウトを採用したため、個性的なフロントノーズとなっていたのです。
FFこそシトロエンに先を越されましたが、フロントフェンダーに埋め込まれたリトラクタブルヘッドライトは正真正銘、コード810が世界で初めて取り入れたもの。格納されたヘッドライトは、運転席にあるハンドルをまわすことでせり出し、しまうときも手動という代物でしたが、全米が驚いたシステムだったことは確かでしょう。
また、コード810のワイパーはエンジンの吸気を動力源にするアイディアが採用されていたのですが、ドライバーがアクセルを緩めるとワイパーが止まるというトホホな場面もあったとか。
なお、FFパッケージとしたことで、コード810にはセンタートンネルが不要となり、車高を下げることに成功しています。これにより、当時のデフォルトだったサイドステップ(ランニングボード)を省くことが可能となり、よりモダンでスポーティなフォルムを獲得できたのです。