バイワイヤステアリングのRZにレクサスの未来を垣間見た
富士スピードウェイのショートコースに並べられていたのは、レクサス史上初のコンパクトSUVとなる「LBX」と北米での販売予定モデルである「TX」だ。
LBXはスタイリッシュな車体デザインにレクサスらしいフロントグリルデザインを持ち、小さいながら存在感がある。全長4190mm、全幅1825mm、全高1560mmは、トヨタでいえばヤリスクロスとほぼ同サイズ。ホイールベースは2560mmと同じになっている。ただし、装着されるタイヤは225/55R18と幅広で、これを収めるための全幅はヤリスクロスより60mmも幅広い。見た目どおりワイドでボリューミーなデザインとなっていてカッコいいのだ。
パワートレインは1.5リッター3気筒ガソリンエンジンのHEVでFF前輪駆動の仕様となっている。3気筒エンジンは稼働時に特有なノイズと振動を発生させる。コンパクトカーや軽自動車に多く採用されているので安っぽいと感じる印象を持っているユーザーも多いだろう。レクサス車として、いかに振動やノイズを抑え、質感を高めるかが課題だったといえるだろう。
実際に走らせてみると、その辺は防振材や遮音材の適切な配置により、ほとんど気にならない。いや、3気筒でここまで質感が高まるのか、と意外に思わせるほどの仕上りだ。クローズドコースゆえ、全開加速も試せるのでストレートでは試してみたが、そうした場面では3気筒のサウンドが聞こえてくる。それでも、安っぽさやノイズといった気に障る音質ではなく、6気筒エンジンの半分であることを意識させる音質であると思えた。
ステアリングフィールはやや重めで重厚感があり、ハンドリングもライントレース性が高く安定感が高い。太いサイズのタイヤが接地性とグリップを高め、レクサスと名乗るに相応しいハンドリングを提供してくれている。
GA-Bプラットフォームは、こうした高剛性で質感の高い走りを実現できるポテンシャルがあったわけで、コンパクトカーであることを意識させない走りだった。もちろん絶対的な動力性能や後席のスペースなどには制限があるが、セカンドカーにも高品質を求めるレクサスユーザーに魅力を感じさせるパッケージングになっている。
ミニマムサイズのレクサスということで、新しいユーザー層の開拓にも繋がるはずだ。ちなみに4WDのDIRECT4もラインアップされる予定だというが、発進時にアシストする生活4駆の仕様となるようだ。
一方、「TX」はアメリカの市場からの要望に寄り添って作られた3列シートのSUVだ。
開発責任者によれば、レクサス初の本格3列SUVということで、必要な乗り心地とか室内空間の広さはもちろんのこと、レクサスドライビングシグネチャーと呼ぶレクサスならではの走りにこだわって開発したという。その言葉はフロントフェンダーサイドに張られた「F-SPORT」のエンブレムに表されているようだ。
今回用意されているのは3台で、パワートレインはそれぞれFFとメカニカル4WDの2.4リッターターボ(350)、2.4リッターターボエンジン+HEV(500h)にリヤモーター4WDのDIRECT4となっている。
北米専用モデルということで左ハンドル仕様だ。幅広い室内はコクピットのデザインがドライバーオリエンテッドなレイアウトで、操作性、視認性、デザインも好感が持てる。装備や質感も高いが、実用性にも配慮しているのがわかり、プレミアム性を過分に追求していないところがいい。
走らせるとSUVでありながらロールが少なく、ロードホールディングの良さとグリップ感、乗り心地の快適性がバランスよく仕上げられている。見れば装着タイヤは255/45R22の幅広タイヤで、コンチネンタル社製のM+Sタイヤだ。北米ではM+Sが標準装備されるのが決まりとなっている地域が多く、それに準じた仕様となっているのだが、それにしても22インチという大胆な大径設定に驚かされた。
ドライブモードはエコ、ノーマル、スポーツと用意されている。サーキットゆえスポーツで走ってくださいとの指示なので、スポーツで走行する。アクセルレスポンスやモータートルクのピックアップが優れていて、DIRECT4の制御も後輪トルク優勢に制御されているようだ。したがって、旋回加速でもステア特性はニュートラル。大型SUVとは思えないライントレース性を示し、安定感も高いものだった。
3列シートの6人乗り仕様はセカンドシートが分離独立したキャプテンシートでシート間をウォークスルーでき、3列目へのアクセス性を向上させている。ただし、3列目は日本人の平均的な体型ベースでは十分な広さがあるが、北米の大柄な平均体型だと窮屈ではないかと思わせられるものだった。
次にTX350に乗り換える。メカニカル4駆モデルでハイブリッドではないエンジン車だ。FFベースなので、まず最初に前輪が駆動力を出し、荷重移動でフロントが持ち上がると今度はリヤアクスルに駆動配分されていく。車体のフラット姿勢は同様に保たれロールが少ない。ハイブリッド車と非常に似た乗り味だが重量が軽い分の軽快さが感じられた。
最後の試乗車は「RZ」だ。レクサス初のバッテリーEV(BEV)モデルとして発売される予定だという。ベースとしては、BEV専用のe-TNGAプラットフォームをベースにボディやシャシーを専用開発。荷重に応じて前後の駆動力配分をシームレスにコントロールするDIRECT4を搭載してレクサスらしい走り、静粛性、乗り心地、またあらゆる速度域で対話のできる快適な室内の実現を目指して開発が進められた。
また、プロトタイプのバイワイヤーステアリングを搭載したモデルも試すことができた。ステアリングとタイヤの間に機械的な機構の繋がりが一切なく、電気信号でステアリング操作をコントロールをしている。ステアリングホイールは横長の楕円形状で、ハンドルというよりはコントローラーというほうがしっくり来る形状だ。直感的にステアリングを切ってクルマが応答するフィーリング、また取りまわし性の良さなどが特徴だという。
試乗コースは富士スピードウェイ内のドリフトコースに特設されたパイロンコースで、ハンドリングと取りまわし性を中心に試すことができた。
まず、通常のステアリング機構を持つRZ。モーター駆動のトルクフルな走りとドライバビリティの良さが魅力で、レクサスのクオリティに準じた遮音性で静かで力強い。室内空間は装備や居心地が良く、斬新さに溢れている。操舵力は重めで安定しているが、路面や姿勢の変化による操舵フィールを押さえ込んでいる。
次にバイワイヤーモデルを試す。「うわっ! クイック」 いきなりだがちょっとステアリング操作しただけで前輪が過剰に反応する。いわゆる操舵ゲインが強く、予期していないと頭が振られ酔ってしまうほど。ドライブモードでゲインは変化するようだが、もっとも穏やかであるはずの「エコモード」で走ってもこの状態だ。低速でもゲインが強すぎ、狭いパイロンをスムースにクリアできない。狙ったラインより常にイン側に動いてしまうので、後輪内輪でパイロンをひっかけてしまった。近年、北米のユーザーは操舵初期のゲインが強いのを好むと聞くが、これはやり過ぎだろう。
ただ、バイワイヤーは自由自在に制御できるので、個人の好みに合わせることもコンピューターのプログラム変更で簡単にできるはず。専用コースでオーダーメイドのステアリング特性を設定変更できる時代が来るかもしれない。
そんな未来の在り方を垣間みる事ができたのだった。