この記事をまとめると
■トヨタの生産現場ではいま大きなチャレンジとしてCO2削減に取り組んでいる
■もっともCO2を排出する塗装工程ではさまざまな取り組みによりCO2排出量を従来比36%削減
■カーボンニュートラル化に向けて再生可能エネルギーの使用を進めている
生産現場で取り組まれているCO2の削減
トヨタが開催したモノづくりワークショップについての報告。これまでは主に、生産現場における匠の技とデジタルの融合についてお伝えしてきた。それと同時にいま、生産現場で大きなチャレンジとなっているのがCO2削減である。トヨタの、まさに現場での取り組みについて学んだ。
訪れたのは塗装の評価を行なう実験場というべき箇所。じつは自動車の生産工程で、もっとも多くのCO2を排出しているのは塗装工程だという。その割合は4分の1ほどを占め、以下に鋳造、機械、工場の空調などが続く。
そのうち、とくに塗装ブースでは、年間を通して温度、湿度を一定に保つための空調がまずエネルギーを使い、床下には飛散した塗料を捕集するシステムも備わる。もちろん、その廃水処理も必要ということで、とりわけ多くのエネルギーを必要とする。
ここでのCO2削減のために開発されたのが超高塗着エアレス塗装(静電微粒化塗装)だ。従来のスプレー塗装の塗着効率が70%だったのに対して、エアの代わりに静電気を用いるこの工法では、塗着効率がじつに95%まで高まるという。
一般的なエアスプレー式塗装は、塗料をエアを使って吹き付けるが、これだと跳ね返って飛散する粒子も多くなる。対するエアレス塗装は、美容器具などに使われるような塗料を静電微粒化する特殊なノズルを用いることで、電気を帯びた粒子が電位差によって車体に吸い付くように塗着する、いわゆる静電塗装となる。これにより塗料のムダが減り、飛散した塗料を処理するのも容易になる。また、ブースの清掃などのインターバルも長くなるため、生産効率、品質の向上にも繋がる。
この特殊なノズルを持ったロボットの塗装動作の作り込みにも、匠の技が活きているという。この工程だけでCO2排出量は7%削減されている。
塗装ブースの床下セクションには通常、水による塗料ミスト捕集のための大がかりな設備が置かれる。ここに今回採用されたのは、なんと特殊構造のダンボールを使ったフィルター。塗料ミストの圧倒的な削減により、大規模な水循環システムが不要になったために採用が可能になった。これでCO2排出量は、さらに12%削減を実現しているという。
エアレス塗装には他にもメリットがある。塗料ミストが減って汚れによる影響が小さくなったことから、それ自体コンパクト化された塗装ロボットの配置間隔が従来の2.5m置きから75cm置きにまで狭められ、ロボットから車両までの距離も短くなっている。これによってブースの容積は従来の6割にまでコンパクト化でき、天井全面から空気を吹き出し、床面で吸い取るいわゆるダウンフローが減らせることから、17%のCO2削減に繋げることができた。
これらトータルで、従来工程に対してCO2排出量は36%減となる。この最新の塗装工程はすでに中国の広州、天津の工場に導入され、bZ4Xやシエナなどの生産にも使われているとのことだ。
これはほんの一例で、トヨタの工場ではさまざまな努力、方策により、2022年の時点で2019年比17%のCO2排出量削減を実現したという。ここまで紹介してきたなかにあった作業を楽にするアイディア、生産性の向上なども、無駄を省くという意味では省エネルギー化でもある。