マネジメント能力とセンスを兼ね備えた逸材
近年、産業界に限らずあらゆる社会で「デザイン思考」が注目されているのをご存じでしょうか? デザインというと丸いとか四角いなどカタチを思い浮かべてしまいますが、それは最終的なスタイリングのこと。デザインとは、対象が抱える課題を発見して整理、その最善の解決策を導く一連の作業を指し、その「課題解決力」に社会が注目しているのです。
クルマ業界でも、デザインと言えばもっぱらスタイリングの話が先行しがちですが、サイモン氏はおそらくプロダクトデザイナーの経験などから「デザイン思考」を深く理解しているのでしょう。その上で、最終的なスタイリングには純粋に「美しさ」を求めています。
同氏による発表会では、スタイリングだけでなく歴史や社会的背景、そのクルマのあるべき姿など多岐にわたる話が展開されます。たとえば、ランドクルーザー250ではクロカンの歴史や原点風景、センチュリーではトヨタの誇りや日本人の感性、といった具合。
最近のトヨタ車にハズレが少ないのは、おそらくこうした諸課題を発見、整理した上でのデザイン開発が軌道に乗っているからで、それはまさに企業ブランディングそのもの。であれば、トヨタがチーフブランディングオフィサーであるサイモン氏にプレゼンテーションを任せているのも頷けます。
ちなみに、マネジメント能力とセンスのよさを兼ね備えたデザイナーは稀だそうで、その点で同氏は、かつていすゞから日産に移籍した中村史郎氏に近い存在なのかもしれません。デザインを広く理解したトップの元では、現場は非常にオープンで自由な環境となり、優れた提案が集まるのも必然と言えるでしょう。
さて、今回はサイモン・ハンフリーズ氏の人物像に迫ってみましたが、先のとおり最近のハズさない新型車群を見ると、同氏の本格的な活躍はむしろこれからなのかもしれませんね。