腹の内を探り合うような駆け引きは減った
昭和のころには新車の商談は「キツネとタヌキの化かしあい」ともいわれていた。セールスマンが「もう赤字ですよ」などと言ってくるのに対し、お客側も「ライバル店はもっと引いてくれたよ」と、引いてもいないのにセールスマンにふっかけたりするので「キツネとタヌキの化かしあい」といわれていたのだ。
ただ、昭和のころではこのようなやりとりも、新車を契約するまでの楽しみのひとつであったが、令和のいまではセールスマンもお客も当時のような「心のゆとり」がなくなっているように見える。社会もコンプライアンスの強化などでそれを許さない風潮になってきている。セールスマンがなにか怪しいことをすれば、すぐにSNSにお客があげるということもあるし、内部告発的なものも増えている。このような環境でセールスマンから化かしあいを仕掛けるのはリスクが高いと言えるだろう。
かつてはセールストークとして受け流していたことも、いまでは苦情化しやすく、本音のやりとりができない現状がある。店頭商談が当たり前で個人情報にもうるさい世の中なので、お客の生活状況や性格が把握しにくいというのも、昔のような突っ込んだ商談がやりにくい背景となっているようだ。
本音でやりとりできなければ、なかなかリアルな限界値引きというのも出にくい。いまはそれが最大の商談での嘘になろうとしているのかもしれない(お客が満足する額でもけっして限界ではないということ。そう思わせるのもセールスマンのテクニックである)。