目指すはベルトコンベアを必要としない自走式組み立てライン
同時に開発されているのは、自走組み立てラインである。ベルトコンベアなしに製造途中の車両に自走させるのは、BEVであれば比較的容易にできる。搬送用の設備が不要になれば大幅なコスト削減になるし、ラインの大幅変更など従来は大型連休中にしか出来なかったことも、すぐに取りかかれる。
こうした新しい工程の導入は、いわゆるデジタルツイン化、つまりコンピュータ上でも同じものが再現されている。つまり、元町で開発された工程、新しいラインづくり等々を、すぐに他工場でも展開することが可能になるわけだ。
こうして完成したクルマはキャリアカーに積まれて日本全国に、あるいは輸出港まで運ばれて海外に出荷されていく。元町工場のヤードは4万平方メートルと広大で、ここに最大1600台を置くことができる。クルマが出来上がると運搬員が1台ずつこのヤードに運び、行き先別に整列させる。その車両は今度はキャリアカーのドライバーによって積載場まで運ばれ、積み込まれるという流れになる。1日につき160便で、800台のクルマが出荷されていくそうだ。
運搬員の方はクルマを所定の位置に置いたあと、歩いて戻ってくる。これはかなりの負担になる。そしてキャリアカーのドライバーもやはり徒歩でクルマを取りに行く。広いヤードだけに、1日8kmも歩くのだそうだ、運転する以外に……。
労働市場の高齢化、高い離職率、なり手不足は慢性的な問題であり、しかもそれを解消するためのドライバー労働時間短縮、いわゆる物流2024年問題も出てきた。ドライバーの負荷を低減し、安心して働ける場とすること、高効率化はまさに喫緊の課題である。
解決策のひとつが自動化。その一環として9月から稼働を始めたのがヤード内の車両運搬を行なうVLR(Vehicle Logistics Robot)ロボットだ。
クルマの床下に潜り込んでタイヤを掴んで持ち上げ、10km/hで走行するこのロボットが、完成車をピックアップしてパレットに載せ、ヤード内の指定された位置に降ろす。そして出荷の際には積載場まで運んで行く。ドライバーはここで積み込めばいいので、負担が激減する。
このロボットは貞宝工場のスタートアップスタジオで開発された。構内の路面にはうねりがあるので、何とレクサスLS用のエアサスペンションが使われている。保全課の方々と連携して設計されており、管制コントロールに加えて異常検知時の自動停止システムも備える。GPSにより制御されるため、ヤードにはガイド線などは必要なく、10cmの精度でクルマを整列させることが可能。人の乗り降りが必要ないので、ドア開閉のための60cmの間隔が不要で、同じスペースにより多くのクルマを置くことができるのもメリットだ。
2024年末には搬送のオペレーションをすべてこのロボットに替えるという。現在は運搬員20人で行なっている仕事が、10台のVLRロボットに置き換わるのである。さらに今後は、工場からヤードの搬送も自走での移動を可能にする技術開発に取り組んでいくという。
人の持つ技術を最大限に活かすために、可能な部分は大胆に自動化していく。技術を持つ人がロボットを鍛える。時代の変化に対応するべく、自動車生産の現場も進化は急なのだ。