この記事をまとめると
■スーパーGT第5戦の舞台である鈴鹿サーキットでレースを支えるオフィシャルたちをクローズアップした
■レースオフィシャルとして鈴鹿ラウンドでは総勢290名のスタッフが参加していた
■レースオフィシャルたちのレースに対する情熱と愛情が国内最大級のレースを支えている
決してスポットは当たらないレースオフィシャル
日本最大の人気を誇るスーパーGTにはGT500クラスに15台、GT300クラスに27台がエントリー。サーキットによってはすべてのピットが使用されるほか、ピット作業を伴う長丁場のレースとなっていることから、レースを運営する“オフィシャル”も数多くのメンバーが必要となるのだが、果たしてスーパーGTでは何名のオフィシャルがレース運営に当たっているのか?
また、レースオフィシャルといえば、コースの監視ポストでレッドやイエロー、ブルーのフラッグを振るコースオフィシャルをイメージしがちだが、そのほかにもさまざまなセクションがあり、それぞれの担当業務をカバーしている。
というわけで、スーパーGTシリーズ第5戦「SUZUKA GT 450KM RACE」の舞台、鈴鹿サーキットで、スーパーGTを支えるオフィシャルたちをクローズアップしてみた。
まず、レースオフィシャルといえば、前述のとおり、多くの読者が監視ポストでシグナルフラッグを提示する「コースオフィシャル」を思い浮かべることだろう。それもそのはず、鈴鹿ではコースの30箇所に監視ポストが設置されており、そのポストに5名から6名のオフィシャルを配置。取材を行ったスーパーGTの鈴鹿ラウンドでは、コース担当だけで170名以上が配置されるなど、まさにレースオフィシャルのなかでも最大の人数を要するセクションとなっている。
「ひとつのポストで複数人を配置しておりまして、それぞれコースを見る人、フラッグを振る人、接触などの事故や違反を見る人、事故が起きた際にクルマを撤去する人……といったように役割を持っています。ちなみにフラッグを振る人も、この人がイエロー、この人がブルーといったように、レースウィーク中はフラッグの色ごとに担当を固定していますが、耐久レースの場合は、さすがに疲れますので、クルマを撤去する担当者がフラッグを振ったりと役割を入れ替えながら対応しています。そういった意味ではコース担当はひととおりの作業をこなせるようになっています」。
コースオフィシャルの役割を説明してくれたのが沖山尚太さんだ。さらに、耐久レースでは周回遅れのマシンに対して青旗を提示する回数が増えてくるが、これについて沖山さんは「スーパーGTなどは管制からの指示を受けて青旗を振っていますが、8時間耐久レースの場合は、トップが入れ替わっていくので自己判断で青旗を振ることも多いです。そういった意味では緊張感をずっと持ち続けなければいかないので大変です」と語る。
もちろん、コースオフィシャルはフィジカル的にもハードな仕事で「布なので雨が降るとフラッグが重いですね。右手と左手を持ち替えながら対応していますが、女性のオフィシャルも多くて、旗を振るのが上手くてF1でも一番重要なポストに配置される人もいます」とのこと。そのほか、クラッシュ車両の撤去は、まさに命懸けの仕事で「イエロー区間になっているのでルール上は追い越し区間になっていますからね。僕たちはドライバーを信じてクルマを撤去しています」とのことだ。
ちなみに鈴鹿サーキットはスーパーGTのほか、F1、スーパーフォーミュラなどのフォーミュラレース、二輪のロードレースなどさまざまなカテゴリーを開催しているが、その違いについて「二輪のレースでマシンのオイル漏れが発生すると四輪のレース以上に危険が及ぶので、マシントラブルのチェックは四輪以上に気にしています。あとF1はクルマが速いので、目をならさないといけない。フラッグの提示はポスト判断になるんですけど、一瞬でクルマが来るので緊張感があります」とのことである。
次にマシンの車検を行う「技術オフィシャル」もレースには欠かせない存在で、その役割についてスーパーGTの鈴鹿ラウンドで技術委員長を担当した関哲也さんは次のように説明した。
「スーパーGTのほか、スーパーフォーミュラもスーパー耐久もそうですが、競技車両が“JAF国内車両規則”のルールどおりになっているのかを検査するのが、技術オフィシャルの役割。スーパーGTにはさまざまなマシンが参戦していますが、共通項目のチェックシートがありますので、それに沿って出走前に目で見たり、数値を測ったりしながら、最終的に競技車両が走行しても大丈夫ということを確認しています。また、予選と決勝の終了後には事前にチェックしたクルマの状態から変わっていないのかを調べる“再車検”を行っていますが、この再車検も技術の仕事になります」
ちなみに出走前の車検の項目について、「カテゴリーによっても異なってきますが、スーパーGTの場合は1台あたり約20項目をチェックしています。車両重量も計りますが、スーパーGTはヘッドライトやブレーキランプもあるので、一般の自動車の車検のように灯火類のチェックもしています。いかに効率良く進めるかを意識していますが、車検に要する時間は1台あたり10分ぐらい。入念にチェックしなければいけないクルマは個別に細かく見ています」とのこと。
さらに、車検以外にも技術オフィシャルには役割があるようで、関さんは「レースではピットレーンで作業できる人数や作業できる内容が決まっていますが、鈴鹿サーキットの場合は、ピット前で各チームのピットレーンでの作業人数や作業の内容を監視することも技術の担当になっています」と語る。
なお、技術オフィシャルはすべての四輪レースの車検を担当しているようで「F1などの上位カテゴリーなどは見るべきところが決まっているので大変ではないんですけど、参加型レースのほうが解釈によってクルマの作り方が違ったりする場合が多いので、ルールどおりに指導させていただいています」と関さん。
さらに、「フォーミュラとハコで見るべきポイントが異なるので、技術としてはそれを把握するために勉強しておく必要があります。鈴鹿の場合、技術担当の年齢層は広く、上は70代、下は18歳と歳の差があるので、ベテランが若手に教えながら育てていく……ということが重要になってきています」と語る。
こうして技術委員長の関さん指導のもと育ってきた人材が副技術委員長の板野友裕さんで、2023年のF1日本グランプリでは技術委員長を担当する予定。ちなみに技術オフィシャルの人数について板野さんによれば、「車検が行われる金曜日は30名ぐらいで、走行が行われる土曜日、日曜日はピット前で監視しなければならないので40名ぐらいでカバーしています。ピットでの監視は審判する人とタイヤだけを見る人、カテゴリーによってはタイヤのバーコードを読み取る人などピット前だけで役割が異なりますし、耐久レースでは交代要因も必要です」とのことだ。
板野さんによれば「よく決勝後の再車検で上位入賞者が失格になるケースがありますよね。そのたびに“なんでレース前にチェックしないの?”といった声が出ていますが、レース前の車検は灯火類やシートベルトが規定にあっているのか、消火器が載っているのか……などそういった安全面をメインにチェックしていまして、レース後の再車検で初めてウイングの高さが合っているのか、燃料タンクの量が合っているのか、そういった細かい部分を見ています。同じ車検でも見るべきものが違うので、再車検で失格になるケースがあります」とのことで、レース前からレース中、レース後まで技術スタッフはハードな仕事となっている。