この記事をまとめると
■日本の自動車文化から生まれ独自に進化を果たしたのが軽商用車の軽トラと軽バンだ
■現在、軽トラと軽バンの両方を生産しているのはスズキとダイハツだけ
■軽商用車とひとくくりにしたくなる軽トラと軽バンだがそのベクトルや設計思想は異なっている
軽トラと軽バンは同じ軽自動車のコペンとタントくらいに違う
軽トラや軽バンといった軽商用車は、ある意味で日本の自動車文化から生まれ、独自に進化したカテゴリーの代表格といえる。ボディ寸法を制限した軽自動車という規格のなかで、最大限にスペースを利用するという、盆栽的ものづくりのアプローチはいかにも日本的だ。
現在、大手メーカーにおいて軽トラと軽バンの両方を生産しているのはスズキとダイハツだけで、ホンダを除く他社の軽商用車は、スズキとダイハツいずれかのOEMとなっている。
スズキでいえば、軽トラは「キャリイ」で軽バンは「エブリイ」。ダイハツの軽トラは「ハイゼットトラック」、軽バンは「ハイゼットカーゴ/アトレー」となっている。いずれも3気筒エンジンを縦置きしたFRレイアウトとなっている点は共通しているが、けっしてボディ後半が異なるだけの兄弟車ではない。完全に同じアーキテクチャーを使っているわけではないのだ。
スズキにしてもダイハツにしても、軽トラはキャブオーバーといって運転席の真下あたりにフロントタイヤが配置される設計となっている。一方、軽バンについてはセミキャブオーバーといってタイヤより後ろ、エンジンの上あたりに運転席をレイアウトしたパッケージとなっている。
キャブオーバーの軽トラはショートホイールベースとなるため小まわりが抜群に効くのがメリット。セミキャブオーバーの軽バンは荷室の広さと安定性を両立させるバランスとなっているのが特徴だ。軽トラは基本的に乗車定員2名となっているが、軽バンの場合は定員4名がスタンダードとなっているのも実際の使い勝手において大きな違いだ。
ともすれば門外漢的には軽商用車とひとくくりにしたくなるものだが、軽トラと軽バンは同じ軽商用車といっても、そのベクトルや設計思想は異なっている。共通しているのは商用として使われることを考慮したタフネスくらいだろう。
結果として、それぞれのファンが抱く思い入れもまったく違うといえる。
だから、軽トラと軽バンについて、「同じFRレイアウトの軽商用車なのだから同じようなものでしょう」などと外野から言われると、おそらくそれぞれのファンは納得できないだろう。
そんな細かい思い入れは理解しがたいと言いたくなるかもしれないが、逆にこうした言い方があったら、あなたはどう思うだろうか。「ダイハツの軽乗用車ラインアップは3気筒エンジンを横置きにしたFFレイアウトが基本となっているから、全体としてのメカニズムは同じようなものといえる。だからタントとコペンは似たようなモデルといって差し支えない」。
コペンのファン、タントのファンともに「いやいや、エンジンの搭載位置と駆動方式だけで一緒くたにするのはおかしい」と抗議するのではないだろうか。同様のことを軽トラと軽バンのオーナーやファンは日々感じているはずだ。
たしかに軽トラと軽バンにおいて、エンジン搭載位置やトランスミッションなど軽商用車としての基本設計は共通しているのは事実だ。しかし、マインドとして2シーターの軽トラと4シーターの軽バンはまったく違うジャンルの乗り物といえるのだ。
ほとんどのグレードにおいてシートがリクライニングできないスパルタンな軽トラと、なんなら荷室で横になって休憩できる軽バンというのは、オーナーのストイックさからして次元が違うともいえるのである。