スバルとポルシェだけしか使わないのはナゼ? 水平対向エンジンの謎 (2/2ページ)

性能追求の面で見た「水平対向エンジン」のメリットは?

 そんな経緯で採用された水平対向エンジンですが、いまのスバルやポルシェが採用し続けている背景とは事情がまったく違います。技術が成熟して高度な戦いが繰り広げられているモータースポーツの世界。そんな厳しいステージで戦うためのベース車が搭載するエンジンに水平対向を選ぶ理由を考えてみましょう。

 そのひとつは「低重心」です。上部にシリンダーとシリンダーヘッドを置く直列やV型エンジンに比べて、クランクシャフトと同軸にそれらを配置する水平対向は、エンジン単体では圧倒的な低重心を誇ります。実際には吸気系やオルタネーターなどの補機類を上部に配置しなくてはならないので重心はクランクシャフトより上になりますが、スポーツ走行において重心の低さは上位に挙げられるメリットなので、このアドバンテージは魅力になります。

 そして、左右のシンメトリー(対称性)もメリットになります。左右にほぼ均等にシリンダーが配置される水平対向エンジンは、構造的な対称性がほぼカンペキになります。重量配分が左右同じというのは運動性能においても有効に働きますので、性能を追求する車両で水平対向エンジンを採用する理由のひとつになるでしょう。

 エンジン単体で見ても性能追求にメリットがあります。バランサーやクランクウエブ(ウエイト)が不要なので、クランクがシンプルで軽量にできます。そして隣り合ったピストンが交互に動く仕組みのため、シリンダー内の圧力がピストンの抵抗になりにくいことも加わって、高回転に有利な形式となるため、高出力が見込めるエンジン形式だと言えます。

官能面で見る「水平対向エンジン」の魅力

 スポーツカーにとってはドライビングの気持ち良さもかなり重要です。ポルシェとスバルの水平対向エンジンの魅力として挙げる人が多いポイントが、「ボクサーサウンド(ノート)」でしょう。向かい合うシリンダー同士が同時に燃焼する水平対向エンジンならではの「ドコドコ」や「ドロドロ」といった鼓動感のある排気音が好きだという人は多いと思います。これは他の形式のエンジンでは味わえないポイントなので、オーナーにとっては優越感を味わえる部分でしょう。一時期はマフラーを交換することで、その鼓動感をより強調している車両も多く見かけました。

 あとは左右対称レイアウトならではの、左右2本出しマフラーの後ろ姿でしょうか。近頃はデザイン重視で左右配置のマフラーも増えてきましたが、その説得力は水平対向が一段高いところにあると感じます。

ではなぜ、スバルとポルシェにしか採用車が残っていないのか?

 高性能を追求する時代にはメリットの方が注目されていた水平対向エンジンですが、時代が燃費や環境優先にシフトしてきた近代では、そのメリットの部分が効果を発揮しづらくなってきているようです。

 いちばんのデメリットはエンジン幅が広くなってしまう点です。いまの環境対応思想のエンジン設計はロングストローク傾向にありますが、水平対向エンジンではエンジンの幅をさらに広げる方向になってしまうため、それはできません。

 また、衝突安全の面でも制約になってしまいます。衝突の衝撃を吸収するために重要なサイドメンバーを理想的なところに通せないため、エンジンを落とすなどの別の方法で衝撃を分散させて対応しています。

 そして、意外と見逃されている部分ですが、エンジンと駆動系の最下部になるのはマフラーとフライホイールなので、スバルのように前置きの水平対向エンジンのクランク軸の位置は、直列やV型エンジンよりも少し高くせざるを得ないようなんです。それでも低重心なことには違いありませんが、圧倒的な低さとまでは言えないようです。


往 機人 OU AYATO

エディター/ライター/デザイナー/カメラマン

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スズキ・ジムニー(SJ30)※レストア中
趣味
釣り/食べ呑み歩き/道の駅巡りなど
好きな有名人
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