クルマを作るための設備を開発する貞宝工場
一方で、労働者不足は慢性化しており、教える人も減っている。しかし育成に時間はかけられないということで、技能の継承と進化がいま、デジタル化されてきているという。
例とされたのは量産ラインでのシーラー塗布工程。速く、そして複雑な動きが求められる工程で、見事な実演を見るに習得にはいかにも時間がかかりそうだ。実際、訓練では言葉で教えてもなかなかわかりづらいということで、デジタル化が導入された。
動かす速さや先端の角度などのデータが取れるようにガンを改造。歪みゲージ、リニアセンサー、モーションキャプチャーなども用いて、高技能者の技を伝承する。これで訓練はマンツーマンで行なう必要がなくなり、訓練時間は50〜80%減になったという。ゲーム感覚もあり、楽しみながら匠の“暗黙知”を取り入れることができる。
ヒトの技能が育てば、今後はそのヒトがロボットにそれを教え、自動化に繋げることもできる。デジタル化も現場力がなければ実現できないことであり、それらの融合が不可欠というわけである。
設備開発づくりに於いても、デジタルの活用による高効率化が進んでいる。いわばモノづくりの働き方改革である。
形にしたアイディアを、量産に繋げるための設備を構築していく際に、問題となるのは途中でのやり直し。3Dにする過程で2Dの図面では分からなかった齟齬が生じると、大きなタイムロスになる。
そのため、導入されたのがARを用いた図面の立体検証。設計者、開発や製造の担当者など皆の知恵を集めて3Dモデルを作り、実際に動かしてみる。これにより、やり直し件数は何と10分の1に、設備費は4分の3への圧縮を実現したという。
海外の設備でも確認が容易になり、さらには実際に作業する人がラクになる設計も最初から盛り込んでいけるようにもなった。今後は“仲間づくり”、協力メーカーも含めて採用を拡大していくということだ。
そして、実際のものづくりの現場でもデジタルの活用が進む。例として見ることができたのは、じつは30年以上の前に導入された金型加工設備。材料の投入、そして切削用の刃物の交換はこれまでヒトの手で行なわれてきたが、これらを自動化できれば土日夜間問わず動かすことができ、監視員も減らすことができる。この工程は3Dモデル上で改善、そして自動化され、目標通りの生産性3倍、リードタイム3分の1を実現した。
行なわれているのは既存の設備をデジタルで3Dモデル化し、そこに現場ならではの改善を加えるということ。トヨタ曰く双方向型のデジタルツインである。
貞宝工場には次世代電池の普及版たるバイポーラ型リチウムイオン電池、そして全固体電池の量産化開発ラインも設けられている。すでにおおよその導入時期が明言されている、トヨタのBEV戦略の要というべき技術である。じつはトヨタがかつてプリウスαで初めて使ったHEV用リチウムイオン電池も、燃料電池自動車MIRAIのFCスタックも、ここ貞宝工場で作られていたのだ。
この次世代電池普及版は、集電体の上下に正極、負極を持つバイポーラ型とすることで、電池は配線などが少なくなり、部品点数が3分の1になり、薄型となるため積層が容易になり、大容量化しやすくなるという。現行bZ4X比で航続距離は20%向上し、コストは40%減になるということで、普及価格帯のBEVへと搭載されることになる。
バイポーラ型リチウムイオン電池は、正極活物質に安価なリン酸鉄リチウム(LFP)を使い、材料費の大幅減を実現する。金属箔のシートに、ペースト状の正極活物質を塗布する工程を見学したが、大判のシートに、量産を見据えたスピードでムラなく均一に、そして大量に塗り込むのだが、一面に塗るのではなく間欠塗工するため、ペーストの供給を止めるだけでなく、止めた時に瞬時に吸って戻すサックバック機構を導入している。この辺りは、まさにHEVで培ったノウハウ、FCで開発した高速塗工技術が活きているのだという。
全固体電池はその名のとおり負極や正極、電解層に液体ではなく固体を用いる。液体と違って重要なのは密着性。これが量産化の課題となる。キーとなるのは材料はもちろん、それを潰して固め、速く積み、アルミラミネートにぴったりと包む技術だ
こちらも、まさに設備ないところから作り、製品として成り立たせる実験、実証を行なっているところである。何でもロボット化するのではなく、カラクリなども駆使しているのは他の工程と同様。最新の技術であっても、最後はやはり人の手、アイディア、工夫が重要なのである。