街なかでは必要十分なパフォーマンスもクルマ好きには推しづらい
特筆すべきは後席の広さで、とくに足もとには十分以上の余裕がある。もちろん、これは長いホイールベースの恩恵だ。
ラインアップはスタンダードとロングレンジの2モデルがあり、試乗したスタンダードは最高出力95馬力、最大トルク180Nmの電気モーターを搭載する。容量44.9kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーにより航続距離は400kmである。
乗るのは主に市街地だと想定するなら、動力性能は必要十分といっていい。いつでも必要なだけのトルクをすぐに得られるドライバビリティは良好で、軽快でストレスのない走りができる。
室内はBEVらしく静かなはずだが、低速域の車両接近警報装置、ウインカー作動音、その他の電子音が常に鳴っている感じで、ちょっとうるさく感じられた。デザイン同様、もう少し落ち着きが欲しい。
サスペンションの動きはふんわり柔らかめで、乗り心地もいい。直進性も速度を上げなければまずまず。街なかを走っている限りは、大きな不満を感じることはなかった。
さすがに高速道路で100km/hを超える頃からは、加速がついてこない感じも出てくる。それは想定どおりではあるが、高い速度域では直進状態から操舵していったときの挙動の繋がりがいまひとつ滑らかではなく、この日チョイ濡れだった路面では旋回時の安定感も、やや心もとないものだった。
試していないので断言はできないが、こうした領域で使うことが多いユーザーは、ロングレンジを選ぶべきかもしれない。こちらはバッテリー容量が58.56kWhとなり、航続距離が476kmに。同時に最高出力は204馬力、最大トルクは310Nmまで引き上げられている。しかも動力性能の向上に伴って、リヤサスペンションがトーションビームからマルチリンクに格上げされてもいるのである。
このセグメントのクルマとしては装備の充実度は高く、先進運転支援装備はずらり揃っているし、インターネット接続も標準で対応している。移動のための道具として割り切って考えれば、そして価格に納得できれば、BYDドルフィンは有力な選択肢となり得るだろう。
ただし、クルマが好き、運転が好きという人には、現時点では積極的に推すものでもないかなと思うのも正直なところだ。もっともATTO3の完成度を知っているだけに、BYDはすぐにキャッチアップしてくるだろうと思われる。
ほぼ日本メーカー空白地帯のセグメントに投入された意欲作。BYDの勢いにブーストをかけることは間違いない。