この記事をまとめると
■デリカミニは予約開始の1月から販売開始の5月までで約1万6000台を受注した
■新車ではなくeKクロススペースのマイナーチェンジモデルという扱いとなっている
■男性のみならず子育て世代の家族にも大きく支持されたことがヒットした要因のひとつだ
三菱デリカミニがここまで売れた勝因は?
2023年に登場した新型車のなかで、とくに注目される車種がデリカミニだ。1月に予約受注を開始して、正式に発売される5月までに約1万6000台を受注した。
この受注台数自体はさほど多くないが、三菱の販売店舗数は、全国で約550箇所と少ない。トヨタの約12%だから、受注台数が約1万6000台でも、1店舗当たりの台数は多い。
デリカミニで注目すべきは、正確には新型車ではなく、eKクロススペースの改良版になることだ。なぜデリカミニはマイナーチェンジでここまで注目されたのか。
もっとも大きな効果を発揮したのはフロントマスクの刷新だ。以前のeKクロススペースは、フロントマスクの上側とバンパー部分にライトを分割して装着する精悍な顔立ちだった。
開発者によると、このフロントマスクは男性には好評だったが、子育て世代の女性には「表情が怖い」という意見も根強かったという。これが販売面にも良くない影響を与えており、デリカミニではフロントマスクを大幅に変えたという。
子育て世代が使うクルマの事情はデリケートだ。軽自動車の開発者は、デリカミニのような背の高いスーパーハイトワゴンが人気を高めたことについて、「お客さま同士がコミュニケーションを図りやすい事情がある」と述べた。
わかりにくい表現だが「クルマを使って子どもを幼稚園に通わせる場合、周囲のお母さんたちとクルマのタイプを合わせる必要がある」と言うのだ。クルマの見栄えが異なると、お母さん同士の仲間意識にまで影響を与えるらしい。言い換えれば、周囲の人達と違った行動をとると、仲間ハズレにするイジメの構図だ。以前、スポーツカーの開発者も「スポーツカーが売れない根底にはイジメがあると思う」と語った。
つまり、eKクロススペースのフロントマスクでは個性が強すぎて「お客さま同士がコミュニケーションを図りにくい」のだ。それがデリカミニなら適度な範囲に入り、お母さんも使いやすい。
車名も良かった。「eKクロススペース」では長くてわかりにくいが、「デリカミニ」なら覚えやすい。「デリカ」の知名度が高く「ミニ」は軽自動車をイメージさせる。かつての「パジェロミニ」を知っている人にも馴染みやすいだろう。
登場時期も影響した。2023年の前半は、軽自動車やコンパクトカーでは新型車の投入が少なく、結果的にデリカミニが目立った。「デリ丸」が登場するユニークなTVCMも話題になっている。販売店やメーカーには「デリ丸のヌイグルミを買いたい」という声が数多く寄せられたという。三菱ではこれの商品化にも乗り出した。
さらに4WD仕様は、最低地上高(路面とボディのもっとも低い部分との間隔)に余裕を持たせ、悪路のデコボコを乗り越えやすくし、乗り心地も向上させた。4WDモデルのタイヤはスズキ・ハスラーと共通化してコストを抑えながら、優れた効果を発揮している。
以上のようにデリカミニは、さまざまな工夫の相乗効果によって注目を浴びた。