インプレッサはドライバーが操っている感覚が強いクルマ
そういう視点から、多くのユーザーが狙える予算感という条件も満たすクルマを考えてみると、スバル・インプレッサが思い浮かぶ。筆者は、現行インプレッサについては公道で乗ったことはなく、クローズドコースでしか運転したことはないが、いい意味で緊張することなくサーキットでアクセル全開にできるホットハッチという印象が強い。シャシー性能がパワーを余裕で上まわっていると感じた記憶がある。
結果として、トラクションコントロールなどの電子制御が介入するシチュエーションは少なく、シャシーが安定志向なのでスタビリティコントロールの作動が気になることもなかった。実際には、無理なステアリング操作をしたときなどはスタビリティコントロールがカバーしてくれているのだろうが、その介入がネガティブに感じることがないといったところだろう。
同じようなカテゴリーのクルマであっても、メーカーによっては早めに電子制御を介入させてくるケースもある。むしろ、積極的にスタビリティコントロールを作動させているほうが、ユーザーによっては安心感を覚える部分もあるから、そうした味付けが悪いという話ではない。
国産スポーツカーでいえば、マツダ・ロードスターも電子制御をナチュラルなドライブフィールに活用している。
ロードスターに限った機能ではないが、マツダ独自の「キネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)」は、その自然なスポーツドライビングを生み出しているキーデバイスだ。
メカニズムの詳細については割愛させていただくが、Gが強めにかかるようなコーナリングの際にリヤの内輪側をわずかに制動することで、ロールを抑制しながら車体を引き下げて姿勢を安定させるという機能。モータージャーナリストの多くはKPCによる走りの違いは明確と評しているようだが、少なくとも筆者が公道走行で体感した範囲でいえば、KPCが作動しているかどうかを感じ取ることはできず、常にロードスターらしいナチュラルなハンドリングを楽しむことができた。
電子制御をアナログ的なフィーリングになるよう作り込んだ好例といえるだろう。
あらためて重要なのは「アナログ的フィーリング」であって、電子制御が皆無のプリミティブなメカニズムが楽しいというわけではないことだ。
筆者の車歴でいえば、もっともアナログ的なメカニズムだったのは1990年代に乗っていたダイハツの軽トラック「ミゼットII」。エンジンはキャブとデスビによる非・電子制御仕様。パワステもなく、ブレーキも四輪ドラムで、空荷では頻繁にタイヤロックするような乗りものだった。
1990年代の軽自動車としても、特別に洗練されていないといえるほどで、たしかにアナログ的な味わいはあったが、それがドライビングの楽しさに繋がっていたかといえば疑問もある。電子制御を使ってでも、アクセルやブレーキのコントロールがしやすく、すべての操作に車両がリニアに反応してくれたほうがスポーツドライビングでの満足度は高いのではないだろうか。
機械的にアナログ(非・電子制御)であることよりも、どれだけナチュラルに感じられるよう作り込んでいるかが、2020年代における「アナログ的な走り味」を求める基準としては重要になってくるだろう。