シンプルな機構だが、パーツは多いので壊れる場所もその分多い
原因その2:シンクロ部分の不具合
よほど旧い車種は例外ですが、ほとんどのMTには「シンクロ機構」という、ギヤの切り替えをスムースに補助してくれる機構が備わっています。シフトチェンジのとき、例えば2速から3速に切り替える場合、加速して上がった回転を、アクセルを戻して下げる操作をおこないます。
ミッションのなかでは、高い回転でまわっているシャフトと連結されている2速ギヤに対して、スタンバっている3速ギヤは無回転となっています。その回転差の大きい状態では、3速ギヤを連結しようとしても弾かれてしまってできないため、回転を落とすことが必要なのですが、いくら回転を落としても2000〜3000回転はあるので、まわっている方と止まっている方では回転差が残っています。その差を摩擦によって同期してくれるのがシンクロ機構です。
さて、そのシンクロ機構ですが、回転を落としきる前にシフト操作したり、クラッチが完全に切れる前に操作したりすると、同期しきれなくなってしまいます。雑にシフトしてしまったときに「ガガガッ」となるのを経験した人も多いと思いますが、あれがシンクロ機構のキャパを超えてしまった状態です。
あの「ガガガッ」を頻繁に起こしてしまうと、その結果、シャフトの駆動力をギヤに連結するための細かい歯を持つシンクロナイザーリングの歯が減ったり欠けたりしてしまい、同期に支障が出るようになってしまうのです。
この対策としては、まず摩耗を予防するためにシフト操作をしっかり確実に行うことです。「ガガガッ」は百害あって一利なしですのでやめましょう。そして、もし摩耗が起こってしまったら、シンクロナイザーリングの交換で修理が可能です。ただ、例外的にひどい場合はギヤやスリーブにまで摩耗が及ぶ場合があり、そうなってしまったら、やはりミッションをASSY交換した方が安く上がる可能性もあります。
原因その3:クラッチの摩耗による操作不全
原因の3つめは、ミッション本体ではなく、クラッチの原因によるシフト操作の不具合です。クラッチが繋がっている状態では、エンジンの駆動力と後輪の抵抗の間で、シャフトやギヤには常に圧がかかっています。これは先のシンクロ機構も同様で、圧による摩擦でガッチリ噛み合っている状態では、ギヤを抜くこともままなりません。まあ、フル加速中にギヤを抜こうとする人はいないでしょうが、抜こうとしてもそうそう抜けないと思います。
一方で、クラッチは摩耗すると繋がりにくくなっていき、最終的には前に進めなくなってしまいますが、逆にクラッチペダルを踏んでクラッチを切ったつもりなのに、切れきっていない状態というのも起こり得ます。これがシフト不全の原因になる場合があるんです。
クラッチがわずかに繋がったままだと、先ほど説明した圧が残った状態なので、ギヤが抜きづらく、入れづらい状態になってしまいます。そのまま使い続けていると、先ほどのシンクロ機構の摩耗を招いてしまうのです。
では、そのクラッチが切れきらない状態はなぜ起こるのでしょう?
原因はいくつか考えられますが、まずはクラッチレリーズの作動不足です。油圧クラッチのフルードが減ったり水が混入したりすると、ペダルの操作がクラッチレリーズに伝わりきらなくなり、目一杯踏んでいるのにクラッチがちょっとしか動かない状態になります。対応は、フルードを交換してリフレッシュすることです。
もうひとつの原因は、クラッチペダルの調整が間違っている場合です。これはめったに起こるケースではないと思いますが、車検整備などでクラッチペダルの調整をいじった場合に起こることも稀にあります。すぐに調整しなおしましょう。
最後に、機械的な原因ではなく、ドライバー本人のクセが原因になることもあるので書き加えておきます。単純にクラッチを十分に踏み切っていないことが原因で、常に摩擦が残った状態でシフトしていることがあります。これは、慣れたクルマとクラッチの踏み具合が違う場合、たとえば借りたクルマなどに乗り換えた直後に起こりやすいと思います。
マニュアルミッション車を長く良いコンディションで乗り続けるには、普段から丁寧できちっとした操作を心がけることがいちばん効果が高いようです。