この記事をまとめると
■個人情報保護法の施行以来、顧客リストの持ち出しができなくなった
■かつて新車販売員は転職先でも前職時の顧客リストで営業活動を行うのが当たり前だった
■現在は同会社内での移動であっても顧客の同意がない場合は顧客情報の移動はできない
個人情報保護法で営業スタッフの転職事情が激変
別のテーマのときにお話ししたが、2005年に個人情報保護法が全面施行になったあたりから、新車販売もずいぶんとその形を変えた。個人情報保護法施行以前ならば、ディーラーの店頭を訪れ、「来店カード」といったものにアンケートに答え、住所、氏名、電話番号を記入をしようものなら、昼夜の分け隔てなくセールススタッフから電話がかかってきて、しまいには自宅に訪ねてくるなんて当たり前であった。
しかし、個人情報保護法施行以降は、来店カードのようなものに記入しても、DM(ダイレクトメール)発送などへの活用こそできるものの、自宅訪問はおろかセールススタッフの売り込み電話についても、記入された個人情報を使用することはできなくなった。それでも電話で「その後どうですか」といったような電話がかかってくることは一部であるようだが、何回も言うが、自宅にセールススタッフがアポなしで訪問してくることは、およそメーカー系正規ディーラーでは、会社としては行わせることはなくなったと確信している。
個人情報保護法施行以前は、もちろん注文書の控えなどは各店舗やセールススタッフ個人などで管理していたのだが、それとは別に一般的なノートに「顧客名簿」を作るように言われたそうだ。販売した順番に売った相手の氏名や住所、電話番号、勤務先や売ったクルマなどを記入して、各セールススタッフが個人管理していたのである。
なぜ個人管理するのかといえば、当時はセールススタッフがより高い歩合給などを求めて短期間で転職を繰り返すのが珍しくなかった。そんな短期間での転職を行うときに持ち歩くのが、自分自身の顧客名簿なのである。
つまり転職先としては、セールススタッフ本人だけでなく、本人がそれまで売ったお客もついてくると判断して採用していたのである。「今度Aというメーカー系のディーラーに転職しました」として、かつての顧客にAメーカーの新車を売り歩くのである。しかし、個人情報保護法が施行されると、セールススタッフが転職するとしても、顧客情報は会社に帰属するものとして持ち出しが許されなくなったのである。
仮に同じ会社で異なる店舗へ人事異動になったとしても、顧客情報をそのまま異動先に持っていくことはできず、「メンテナンス窓口を異動先に移して、同じセールススタッフを担当にすることに同意するか否か」というのを顧客全員に確認してからでないと、顧客情報の移動はできないとのこと。
セールススタッフとかなり長いつきあいになると、自分のクルマの合鍵を渡したり、新車購入時には印鑑証明をもらうためのカードや実印、クレジットカードなどを渡して、新車の新規登録についての必要な書類準備などの準備を一任するお客もいたようだが、いまはそれももちろんできなくなっている。
また話は少々それるが、75歳以上のお客がひとりで来店し、新車を注文した場合には、その後に近親者に購入意思の確認、つまり認知症の有無などの確認も行うディーラーもあるようだ。これは、実際に認知症のひとがひとりで新車の契約をしてしまい、あとで親族とトラブルになったというケースがあったためと聞いている。
昭和や平成初期には、それこそノルマが足りないときに勝手にお客名義で新車の注文を入れ(天ぷらなどと呼ぶ)、そのお客に事後承諾を求めたり、近親者を装って役所で必要書類を回収するなど、ある意味かなりセールススタッフは自由に動けたのだが、個人情報管理が厳しくなり、コンプライアンスなども強く叫ばれる現在では、当然そのようなことはまず行われていない様子。
ただ、逆に制限が多くなりすぎて売りにくくなってきているともいうことができる。世の中が複雑化するなかでは、「なぁなぁ」というものがあらゆる場面で許されなくなってきている。価値観が多様化するなかではお互いの信頼のためにも、「なぁなぁ」が許されない世の中になるのは仕方のないことかもしれない。