試作されたものの市販まではされず幻のクルマに
このスタイルをデザインしたのはカロッツェリア・ギアに所属していたセルジオ・コッジオラ。どういうわけか、コッジオラはギアへの置き土産でもしていったのか、ほぼ同じタイミングで「セリーナ」という、これまた前後わかりづらいコンセプトカーが発表されちゃってます。
それはともかく、900はスタイリングだけでなくパッケージングにも意欲的なアイディアが盛り込まれていました。たとえば、リヤトランクのスペース向上にむけたエンジンの搭載方法。当初、リヤアクスルの真上にシボレー・コルベアのフラット6ユニットを載せようとしたのですが、スペース確保はすれどもハンドリングがひどくなるということで却下。
次いで、リヤアクスルの前方に搭載することにしたのですが、今度はジョルジュお気に入りのドーフィンから「エンジンふたつ持ってこいや」と、4気筒エンジンをふたつくっつけたV8エンジンという男っぷり(笑)。もっとも、ドーフィンは845ccですから、二丁がけでも1690ccと、アメ車のドロドロを期待すると肩透かしをくらいそう。
アメ車といえば、1950年代は世界のモードを牽引していた黄金期でもありますから、900もちょっぴり影響を受けている感じ。たとえば、リヤエンドのテールフィンかのような処理や、ステアリングポストが折れて乗り降りしやすくなる仕組みなど、そこはかとなく古き良きアメリカ車の香りが漂っている気がしてなりません。
さて、コンセプトモデルが2台も作られるというジョルジュの意気込みとは裏腹に、首脳陣はあまり乗り気にはならなかったようです。その理由のひとつには、シトロエンDSの大ヒットによって「これからはRRでなくて、FFじゃないの?」という躊躇もあったかと。また、900が後を継ぐ予定だった同社のアッパーミドルセダン「フレガート」のオーソドクスなスタイルに対し、900が攻めすぎているように思われたとする考察もあります。
ともかく、プロジェクト900は、日の目を見ることこそありませんでしたが、ジョルジュたちが熱心に進めたスペースユーティリティの確保や、世の中にない製品を作ろうというコンセプトは、しっかりとルノーに根付きました。
900からはだいぶ時間が経ちましたが、マルチユーティリティビークルの始祖とも呼ばれる「エスパス」や、「このガタイで2ドアクーペ?」と驚かれた「アヴァンタイム」は、まさしく900のコンセプトを実現したクルマといっても差し支えないでしょう。
これからも、ルノーにはぜひ独自路線を進んでもらって、クルマ好きが驚くようなモデルをリリースしてほしいものです。