控えめに言って「鉄クズ」! ハッキリ言ってゴミ!? このフェラーリの残骸が2億7000万円で落札された謎 (2/2ページ)

ひと言では語れないほど濃密なストーリーが付加価値をつけた

 とはいえ、いくらなんでも朽ちかけた鉄くず同然の車体に2億オーバーの値段がつくのは信じられませんよね。そこで、このモンディアル500の残骸、0406MDについてご説明しましょう。

 1954年、0406MDは2台目のモンディアル500として、フェラーリの太客「スクーデリア・グァスタッラ」に納車されると、すぐさまコッパ・デル・トスカナにエントリー。総合19位、クラス2位というリザルトを残しています。

 このとき、ステアリングを握ったドライバーこそ、スクーデリア・フェラーリのファクトリードライバーだったフランコ・コルテーゼで、彼はこの後にも0406MDでさまざまなレースにエントリー。それなりの成績を残しているのですが、これこそレーシング・フェラーリにとって重要なポイントであること言うまでもありませんよね。

 その後、紆余曲折を経て0406MDはアメリカのオーナーに売られると、またまたウィロースプリングスやエバーグリーントロフィといったレースで活躍。

 ただし、あろうことかアメリカ製V8エンジンに換装されていたとのこと。当時のアメリカでは一般的な慣習だったとはいえ、いまとなっては考えられない暴挙としか言えません。詳細は明らかにされていませんが、この時期に0406MDはレース中のクラッシュで大破、炎上してしまい、いまの悲惨な姿になったとされています。

 それでも、世のなかには物好きというか懲りないコレクターがいるようで、0406MDの残骸はご覧の朽ち果てたボディとトランスアクスル、そしてリヤサスペンションだけの状態でコレクターの間を数回渡り歩くことに。

 で、1978年にたどり着いた先が、今回のオークションの出品元、ウォルター・メドリン氏の「Lost & Found Collection」というわけです(こちらのエピソードもかなり面白いのですが、それはまた別の機会に)。

 さて、45年ぶりにメドリン氏の倉庫から出てきた0406MDは、入庫当時からさらに腐食が進み、なんだかシーラカンスの化石みたいなテクスチャーになっています。

 オークショニアのRMサザビーズが予想した落札価格はそれでも2億円程度と、強気というか傍から見たらおめでたい数字。「0406MDは、13台のピニンファリーナ・スパイダーのうちの1台であり、コンクールイベントなどでも評価されることは必至。仮にランプレーディの4気筒エンジンを含めた修復が叶えば、その価値は……」みたいなコメントがついていたものの、ふたを開けてみれば2億7000万円という驚きの結果です。

 手に入れた方がクラシケで修復するかどうかはわかりませんが(0406MDはこのまま転売したって損するものでもないはずです)、クラシケの作業工賃からいえば5億、いや消失したパーツの新造などを考えたら10億でも追いつくかどうか。

 こうなると、いくら活躍したからといっても4気筒モデル、12気筒に比べると……と、まあゲスな勘繰りよりも、この0406MDがパリっとした姿に戻ることを願うほうが、はるかに愉快ではないでしょうか。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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