ウデ1本で新車を売りまくるエースセールスマンが洗車係の閑職に……すっかり様変わりした新車販売スタッフに求められる能力 (2/2ページ)

個人情報保護法の施行でセールススタッフの転職状況が変わった

 しかし、個人情報保護法が施行されると、顧客データを勝手に転職先に持ち出すことができなくなった。ベテランとはいえ新天地でなじみ客もいないなかで新車を売るのでは、迎え入れるディーラーのメリットもなくなるので、いまではセールススタッフは同じディーラーに定着せざるをえない状況となっている。

 個人情報保護法が施行される直前までは、いわゆる「全体主義(スタッフみんなで仲良く新車を売っていきましょうというようなノリ)」を重んじるようになった日本メーカー系新車ディーラーから、まだまだ歩合給も良い一部輸入車系ディーラーへ流れる動きが目立った。セールススタッフはサラリーマンであり、店舗内には所長(店長)や課長、係長などの上下関係もあるが、基本は一匹狼的なスタイルの仕事が、昭和ではとくに主流であった。

 注文台数をあげてきてナンボ、販売実績だけがモノを言う世界に憧れて新車販売の世界に入ってくる人も多かった(当時は粗利も人事考課の対象になっていたようだが……)。1970年代の新車販売ディーラー網の創成期は、新車を買うこと自体かなりの「ぜいたくな買い物」であったので、店頭売りなどはほとんどなく、新車が欲しい人の自宅を訪ね、アポなしの飛び込み営業をするのが主流であった。そのため、それまで宝飾関係の訪問販売をしていたなど、まさに腕に覚えありといった訪問販売のつわものが、高い歩合給につられて新車販売の世界の門をくぐった。バブル経済のころの新車ディーラーの役員といえば、各種訪問販売のプロの巣窟のようであったと聞いたことがある。

 タクシー運転士もそうだが、日本ではかつて稼げた仕事が社会の変化などで、稼ぎにくい仕事になってしまったケースが意外なほど多い。新車販売の世界もサラリーマン化が進み、稼ぎにくい仕事になってしまったと筆者はみている。「プロ」とか「職人気質」と呼ばれる仕事がどんどん減っていっているようにも見える。

 騒動となっている大手買い取り&中古車販売店で働く人のなかにも、高い歩合給に憧れて入社してきた人は少なくないように見える。いろいろなトピックを聞くと「ブラック企業」のイメージはぬぐえないが、聞く限りでは数千万円の年収の社員もいたとのこと。

 それでも、体制に疑問や不満を持っていた社員や元社員が告発し、世間も報道を聞いて問題視したからこのような事態になったのだが……。

 たらればの話はしたくないが、全国的に、そしてここまでエキセントリックに数々の問題が噴出しなかったら(法的にも倫理的にも問題を指摘されるようなことがなかったら)、状況が違っていたのはあえていうまでもないだろう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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