ユーザーは乗り替えるときに「上級移行」を望むことが多い
このようなサイズアップとその穴を埋める新型車の投入は、輸入車でも行われてきた。わかりやすいのはフォルクスワーゲンだ。ゴルフを1974年(日本への輸入開始は1975年)に発売して人気を得たが、その後にサイズアップして、1997年(輸入開始は1998年)の4代目からは全幅が1700mmを超えて3ナンバー専用車になっている。
そこで1996年には、日本でも5ナンバーサイズのポロを本格的に発売した。その直後にゴルフが4代目になって3ナンバーサイズに拡大されると、ポロの売れ行きも伸びた。
以上のようにボディを拡大して、コンパクトな車種を追加する理由をメーカーの開発者に尋ねると、以下のように返答された。
「お客様が新車に乗り替える場合、以前はさらに大きなボディを希望されることが多かった。そのニーズに合わせて、フルモデルチェンジするときにはボディを拡大していた。その結果、以前のサイズが空席になるから、コンパクトな新型車を投入して車種を充実させた」。
最近はボディサイズが限界に近付き、フルモデルチェンジによる拡大は減る傾向にあるが、マツダの開発者は以下のように述べた。
「CX-5は好評だが、従来型から新車に乗り替えるとき、さらに上級の車種を望むお客様もいる。このときにBMWなどの輸入車を購入するケースが増えたため、上級SUVとしてCX-60を用意した事情もある」。
新車に乗り替えるときにボディを拡大するユーザーは減っても、上級移行が求められることは多い。CX-60はこのニーズに応えた。CX-60の全長はCX-5に比べて165mm伸びたが、車内の広さはほぼ同じで、後輪駆動の採用により最小回転半径は0.1m小さい5.4mになった。つまり、運転のしやすさはCX-5に近いが(それでも全幅の1890mmは辛い)、上級移行を楽しめる。
これは今日的な車種追加だが、CX-5は前輪駆動、CX-60は上級の後輪駆動というような商品の差別化は容易ではない。中途半端な商品を開発すると、従来車種と追加車種が競争して需要を食い合ってしまう。いまのメーカーは難しい判断を迫られている。