これだけクロスオーバーが増えてるのにミニバンSUVはたった1車種! 誰もデリカD:5を追随しないワケ (2/2ページ)

デリカはミニバンをSUV化したのではなくSUVミニバンとして作られた

 それならなぜデリカD:5だけはSUV風のミニバンとして存続しているのか。2023年上半期の1カ月平均は1576台で、販売台数自体は多くないが、三菱は販売店舗数も限られて約550店舗に留まる。トヨタの約4600店舗に比べたら10分の1だ。そうなると1カ月平均が1576台なら、トヨタでは1万5000台に相当するから、十分に成り立つ。

 デリカD:5が堅調に売れているのは、クルマ作りがほかのミニバンとは根本的に異なるからだ。デリカD:5は、プラットフォーム、サスペンション、4WDシステム、外観デザインまで、すべてが悪路に対応している。最低地上高(路面とボディのもっとも低い部分との間隔)にも185mmの余裕を持たせ、ミニバンスタイルのSUVといえるだろう。

 ただし、三菱以外のメーカーがデリカD:5のようなミニバンのSUV仕様を手がけるのは難しい。他社の開発者は以下のように返答した。「ワイドなフェンダーを装着して外観をSUV風仕上げ、最低地上高も高めると下まわりを擦りにくいから、お客様が本格的な悪路を走る可能性が生じる。その用途に対応するには、シャシーや足まわりに十分な耐久性を与えねばならない。横滑り防止装置や衝突被害軽減ブレーキの設定も、すべてやり直す必要が生じる。」

 このような事情があるから、フリードのクロスターは最低地上高を高めていない。ほかの4WDと同じ150mmだ。軽自動車なら販売台数が多いから、最低地上高を高めないSUV化でも相応の台数を販売できるが、小型/普通乗用車では難しい。デリカD:5のように、本格的に手を入れないとダメなのだ。

 ちなみにスバルのクロストレックは、以前のXVを含めて、インプレッサをベースにしながら最低地上高を200mmまで高めた。悪路走破力も高く販売も堅調だが、このクルマ作りを可能にした理由は、スバル車がインプレッサをなどを含めて悪路に対応していることだ。「SUVが人気なら、いろいろな車種に、最低地上高を高めて大径タイヤを装着したSUV風のグレードを用意すれば良いのに……」と思うが、メーカーがそれを行うにはさまざまな困難がある。そのためにSUV風のグレードは、どれも中途半端に見えて、なかなか人気を高められないのだ。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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